報酬制度(給与テーブル)の検討に向けて[その2]

Writing by:上田 明良

前回[その1]は、報酬制度において欠かせない報酬の額・構成の前提として、等級が重要であるという点に触れてきたが、今回は、等級が重要な理由について触れていきたい。 では、なぜ等級を重視すべきなのか?

なぜ等級を重視すべきか?

1.報酬額の根拠とする
等級は、会社の成長、事業戦略、組織戦略の実現に向けて、従業員に求める要素であり、その充足度合いで序列化される。序列化された等級に応じて報酬を定めることで、何に対する報酬かが明確にできる。何に基づいて自身の報酬が決められているため納得感が得られやすい。

例えば、果たしてほしい役割を等級基準とする場合、スタッフは個別の課題の達成、マネージャーはチームの課題設定・複数のスタッフへの課題提示・達成支援というように、組織運営上の役割が分類され、分類された役割に応じた報酬額が設定される。

反対に等級基準がない場合、従業員ごとの報酬額の違いの説明がつけづらくなる。組織拡大に伴い人数が増えるにつれて不満拡大のリスクを負う。

2.成果創出の動機とする
等級は会社が求めるものを序列化しているため、現在地と目指す先、そのギャップが分かるようになる。上位の等級に上がるにつれ報酬も上がることから、会社が求めるものを達成し、報酬を上げていくという点で動機形成につながる。

例えば、マネージャーの役割の一つにチームの課題設定があるとして、現状が特定業務の定められた課題解決にとどまっているのであれば、ギャップを埋めるために業務範囲を広げて解決課題の種類を増やすか、自ら課題を探索し設定できるようになるか等のアクションを導き出すことができる。これは、等級が定められているために実現可能である。

実際は、等級をベースに評価項目が設定され、評価制度に応じて現状とギャップを測り、アクションを定めることになる (業績評価はやや性質が異なる)。
上記2つの観点から、等級を設定し、報酬制度(報酬額・報酬構成)と連動させることで報酬自体に意味を持たせ、従業員の納得感を持たせることで、先の3つの側面(成果創出・退職抑止・採用決定)を満たすことにつながると考える。

他社における等級の考え方

ここで他社事例として、日立製作所の例を紹介したい。

日立製作所は2009・10年の業績悪化に伴い、社会イノベーション事業を中心としたグローバル拡大によりグローバルメジャープレイヤーになることを2015中期経営計画(2012年スタート)にて打ち立てた。この中期経営計画の達成には、異なる国籍や文化を持つ人財による柔軟な配置転換・チーム編成、必要なポジションに対する国内外から適切なプロフェッショナル人材の登用が必要であり、上記を目指す姿として2012年より日立グループ全体において人事制度改革がスタートした。

この人事制度改革において核となったのが、等級制度である。具体的には、グループ全体で約5万の管理職ポジションの職務(職責・必要なスキル・経験等)を可視化し、各職務単位で比較・序列化(レベリング)、序列化された職務を7段階のグレードにグルーピングし等級を設定した。

一方でグループ全体で約20万人の人材情報データベースを構築。職務を可視化したことで人材情報とのマッチングが可能となり、グローバルでの効果的な人員配置につながっている。

もちろん等級の改定に応じて、報酬についても改定がなされている。具体的には7段階の等級=職務の価値に応じた報酬額(報酬レンジ)が設定されている。
それまでの報酬は、職能資格(保有能力)に応じて設定されており、その時点の等級における保有能力が求められないレベルの職務であったとしても、高い報酬が得られるケースが存在していた。

この改定により、職務内容=職務の価値=経営への貢献度に応じた報酬額が設定され、より経営と報酬の連動が高まっている。(旧制度では高い報酬を得ていたとしても本制度では減額されている。)

この日立製作所の取り組みは、可視化された職務をベースとした等級により、何に基づいて報酬を払うのか(職務価値)、どうすれば報酬が上がるのか(上位の職務の内容と現職務・自身とのギャップ)を明示した例であり、先の3つの側面の内、成果創出に影響すると考えられる。

また、要点の箇条書きで恐縮だが、退職抑止の観点からも等級に基づく報酬が寄与した事例もある。

・旧制度はマネジメントをベースとした全社統一の役割等級制度
・エンジニアの退職が課題であり、自身の技術的な貢献が適正に評価されていないという点が主な原因と想定
・エンジニア向けの役割等級定義を用意、等級ごとに市場水準をベースとした報酬額の設定
・等級をベースとした評価項目への落とし込みとエンジニア組織における評価体制の構築
・技術的な側面での事業・PJ貢献度の評価、貢献度に応じた報酬上下で公正感を醸成し、離職者が一定数低減

ここまで、報酬を検討する前に、まずは等級を定めることが重要であるということを述べてきたが、等級がすでに整備されている企業も数多く存在しており、事業環境・組織環境の変化に応じて見直しを図っている会社もまた数多く存在しているだろう。

等級制度における課題

等級制度を運用している企業は、一部ではあるが下記のような課題を感じているのではないだろうか。
・報酬と担っている役割・職務がマッチしていない
・等級間の違いが曖昧で昇格時の納得感が得られづらい
・実際に処遇している等級にミスマッチが存在する(この等級でいいのか?という人が存在)
・汎用性が高い表現で専門性の高い職種にマッチしているか不明
・抜擢した若手役職者の方が古株の従業員より役職は高いのに報酬は低い 等

等級制度のみならず、人事制度は振り子のような性質があるとCANTERA(CHRO養成講座)の中でも取り上げられたことがあった。

一定の基準をもって、従業員の考え方や行動を促そうとするとどうしてもハマらない部分が発生し、個別対応で間に合わない場合、制度を見直すことになる。そして、時間と共に事業環境や組織環境が変わり、新たな課題が発生する。
振り子を振れば反対側が発生し、ふり幅が大きければ響く度合いも高い分、反対側も大きくなる。

どのような制度であっても、環境変化に応じて課題が発生し、それらをいかに進化させていくかが人事の役割の一つではないかと思う。
上記をはじめとする、各制度の課題についても今後の記事にて触れていければと思う。

参考記事
報酬制度(給与テーブル)の検討に向けて[その1]

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その後、大手SIerにて人事制度企画、ソーシャルゲームパブリッシャーにて人事責任者として人事制度、労務、採用など、人事関連の各種プロジェクトマネジメントを実施。
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