キャリア自律とは何か

最終更新日:2020/07/06

Writing by:能登隆太

近年、「キャリア自律」「自律的キャリア」という言葉をよく耳にするようになりました。ですが実は日本では既に1990年代後半から自律的にキャリアを考えることの大切さが指摘されていました。そもそも「キャリア自律」とは何を指すのでしょうか。

キャリア自律の定義

調べてみると「キャリア自律」という言葉に世界共通の定義はないようです。英語表現として該当するのは”Career Self-Reliance“と言われていますが、ジョブ型の雇用システムが前提である欧米においては転職は一般的な概念であることからも、この表現には「自律的」といったニュアンスは強調されていません。

では、日本における「キャリア自律」の定義を見てみましょう。
・「めまぐるしく変化する環境のなかで、自らのキャリア構築と継続的学習に取り組む、(個人の)生涯に渡るコミットメント*」*花田光世・宮地夕紀子・大木紀子(2003)
・「キャリア自律の新 展開─能動性を重視したストレッチング論とは」『一橋ビ ジネスレビュー』51 巻 1 号.

つまり個人が自ら今後のキャリアについて主体的に考え行動することとも言えます。続いて、なぜ「自律」という表現が強調されているのかを考えてみます。そこにはキャリア自律が求められるようになった背景が大きく影響しているようです。

そもそもキャリア自律には2つの視点が存在することはご存知でしょうか。個人と企業の2つの視点です。

個人の視点でのキャリア自律については、今後のキャリアを考える際にポジティブな捉え方をするケースとそうでないケースがあるようです。
ポジティブな捉え方は、自発的な学習や能力開発、人脈形成などを行い自らの成長や自己実現のために組織に依存せず積極的にキャリア形成するケースです。このケースでは転職ありきではなく、自社内での部署異動も対象となります。

一方、ネガティブな捉え方は、第四次産業革命をはじめとするデジタル化による経営環境の急激な変化や人生100年時代といったライフスパンの長期化、日本の終身雇用制度の限界といった構造的な変化によって個人が企業に自身のキャリアを安心して委ねることができなくなり、やむを得ず自律的にキャリアを考えざるを得なくなったケースです。

次に企業の視点でのキャリア自律についてです。こちらも2つの視点が存在します。
1つは社員個人の成長や能力開発を企業の成果に結び付けるべく、社員に企業内でのキャリア形成のあり方について考えてもらうパターンです。基本的に自律的な人材には自社内に留まってほしいとほとんどの企業が思いますよね。

そしてもう1つは逆のパターンです。人材活性化の観点や終身雇用の限界といった制度疲労を踏まえ、早期より将来のキャリアについて社員自身に考えてもらうことで採用から退職の代謝を高めようという考え方です。

このようにキャリア自律には大きく分けて4つのパターンが内包されており、いずれにおいてもこれまでの日本型雇用慣行の崩れに伴い個人が組織にキャリアを委ねるのではなく「自律的」に考えることが大切になったという見方ができると思います。

リンダ・グラットンの”LIFE SHIFT”を読めば、誰しもこのままで大丈夫だろうか?と一度は不安になりますよね。
既に私たちは自らのキャリアに責任を持ち、主体的にデザインしていかなければ生き残れない時代に突入しています。

自立と自律の違い

とまあ、これまでは理屈っぽい内容でしたが、ここからは主観的・概念的な話をしていきます。

キャリア自律といいますが「キャリア自立」ではダメなのでしょうか。結論、やはり自律であるべきなのだと思います。

自立と自律、2つの単語の意味は大きく異なります。自立は他者の助けなしに一人で物事を行える状態、例えば経済的自立とか言いますよね。一方、自律は自らがたてた規範に従って行動できる状態を指します。

キャリア自立は下手をすると周囲の環境変化に気づかず自己満足して停滞してしまうリスクもあります。キャリア自律であれば、外部環境の変化も踏まえつつ自らの理想とする姿とのギャップも冷静に捉えながら自分なりの「ありたい姿」を描くことができそうです。

今の時代背景を踏まえると、自らがやりたいことだけをやるのではなく、周囲のニーズも踏まえながら自分を律し、自己実現できるような人材が求められているのではないでしょうか(もちろん、自分がやりたいことに集中することはとてもいいことですが)。

「やりたいことがないといけない」という強迫観念と教育の罪

当然、誰しもキャリアを自律的に考えてみたいものです。ただ、安易にキャリア自律を強要すべきでもないと感じています。

そもそもこれまでの日本の雇用システムや職場環境、今の日本の教育現場において、将来やりたいことを考えたり、そのための参考になるような機会は十分に提供されているでしょうか。

最近でこそ、入社後に定期的なキャリア面談の実施やキャリアコンサルタントの拡充がなされたりと工夫されていますが、制度と違って人はそんなにすぐ変われません。

常に自律的にキャリアを考え将来が明確な人もいれば、正直何をやりたいのかすらわからない人もたくさんいます(そんな私も大学時代、就職して何がしたいのかイメージできていませんでした)。

もちろん、学校や企業は個人が自らのキャリアを考えられるような機会を諦めず提供し続けるべきだと考えています。常に「問われる」ことは「思考」することに繋がり、その繰り返しによって自分の将来のありたい姿の解像度が高まっていくからです。

ですが、「やりたいことないの?」「やりたいこと見つかった?」と「問い詰める」ことは避けるべきではないでしょうか。やりたいことがないとダメなんだ、と相手を無意識に追い詰めてしまう可能性があることに私たち人事は十分に注意すべきだと思います。

キャリアを自律的に描けるかどうかは、その人の心の状態で決まると言っても過言ではないのではありません。社員を、キャリアを自律的に考える人材に「する」ことはできませんが、そういった人材に「なる」ための機会を提供し続けることが人事の役割なのかもしれません。

キャリア自律を支援するために必要なこと

社員が自律的にキャリアを考えられるような機会の提供が重要であることは前述の通りですが、具体的に何をすればいいのでしょうか。

一般的には入社後、節目の年や40代、50代のタイミングで「キャリアデザイン研修」などをキャリアコンサルタントを招いて実施するケースが多いですよね。このような機会を定期的に設けキャリアに関する「問い」を浴び続けることは一定の効果があると考えています。

一方、社内リソースへの十分なアクセスを可能にしている企業が意外にも少ないと感じています。

社員は基本的に自らが所属してきた部署しか経験していないわけで(当たり前ですが笑)、他の部署にどんな社員がいるのか、どんなビジネスモデルなのか、どのような職場環境なのかを網羅的に把握できているケースは稀です。
よって、自社内でのキャリア形成のあり方を考えられるようにするために、部署横断+対象社員より少し年次が上の社員を招いての座談会の実施等、社員が自社内でどのような成長を実現できるのか、他にどんなワクワクしたチャンスが眠っているのかを知る機会を提供することは企業にとっても個人にとってもメリットのあることだと思います。

自社にとって理想的とされる採用と退社の代謝速度を踏まえ、どのような機会を、いつ社員に提供することがベストなのか、常に情報にアクセスできる状態になっているか、そういった観点で準備ができれば社員のキャリア自律を支援することができるのかもしれません。

おすすめ記事

営業から人事へのキャリアチェンジ体験談

こんにちは。CANTERA ACADEMY3期卒業、杉田みずきです。人事の方の中でも、営業から人事へキャリアチェンジされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。そしてその中でも、自身が想像していたキャリアに人事が”あった方”、”なかった方”と状況はそれぞれだと思います。私自身も2019年4月より、営業から人事へキャリアチェンジをしました。当時私の想像していたキャリアに、人事は全くありませんでした。

【CANTERA talk】アースメディア代表松本淳さんに聞く「今の人事に求められる「人間性」という1つの大切なスキル」

CANTERA NOTEでは、人事領域で活躍される著名人をお招きし、人事パーソンの学びとなるお話をうかがいます。

今回お招きしたのは、一般社団法人アースメディア代表の松本淳さんです。松本さんは、インテリジェンスの創業拡大期に入社後、人材系の会社を起業、拡大後にM&Aで事業譲渡し、現在は国内外の起業家育成に力を注いでいます。また、松本さんのTwitterはビジネスパーソンから人気を集めており、読者のなかには松本さんのTwitterから学びを得ているという人もいるかもしれません。

そんな松本さんに、今の人事に求められる能力や戦略人事リーダーに求める経験やスキル、松本さんが理想とする人事パーソンについてお話をうかがいました。

【CANTERA修了生✕堀尾司】 社会人15年目・HR1年目の水越裕太郎さんが目指すCHROへの道

CANTERAでは、人事領域で活躍している人はもちろんのこと、人事未経験の人も多く学んでいます。 CANTERAアカデミー修了生の水越裕太郎さんもそのひとりです。水越さんはマーケターからHR領域へと半年前に転向し、CHROを目指しています。

今回はCANTERA代表である堀尾と水越さんが対談。水越さんがCHROを目指したきっかけや理想のCHROになるための経験の積み方、水越さん自身が掲げるミッション・ビジョン・バリューや3600人のフォロワーを抱えるTwitterとの向き合い方など、とことんお話をうかがいました。

採用ブランディングは「誰に嫌われるか」

私はあくまでもいち企業の人事であり、ブランディングのプロではないが、必ずしもより多くの人から応募を集めることが採用ブランディングだとは思わない。むしろ、『誰から嫌われるか』こそが採用ブランディングにおいて重要なことだと思う。

ジョブ型人事制度 4つのメリットと2つの留意点

こんにちは。CANTERA ACADEMY1期卒業、上田明良です。昨今、日本型雇用の制度疲弊に伴う見直しの必要性が叫ばれるようになった中、アフターコロナを見据えた働き方の変化が拍車をかけるように、企業への貢献を明確にした人事制度としてジョブ型人事制度(ジョブ型雇用)を志向する企業が増えてきているように思います。ただ、一概にジョブ型といっても、企業が営む事業の性質、組織ステージ(創造性・指揮・委譲・調整・協働など)によってマッチ度は変わってきます。そのような環境下において本稿では、ジョブ型人事制度について導入を検討している、導入するまでもいかないが選択肢の一つとして知っておきたい、将来に向けて純粋に興味があるとった方々に向けて、よりよい選択をする為の一助となればという思いを込めて、基本的な考え方からメリット・デメリット、設計・運用時の留意点につい紹介していきたいと思います。

ソーシャルリクルーティングをはじめる時のいろはのい

会社が成長期で採用を増やしたい!でも採用費用は抑えたいし、優秀な方を採用したい、というニーズの高まりから転職潜在層の採用が可能になるソーシャルリクルーティングを活用している企業も増えています。運用次第では、採用単価を抑えて優秀な方を採用することができるのですが、ポイントを押さえて運用しないと工数だけかかって成果につながらないということになります。

執筆者

能登隆太

CANTERA3期卒業生。
新卒で伊藤忠商事に入社。入社後は人事・総務部配属となり、新卒採用・海外人事(駐在員処遇、出向対応、現地生活調査等)に従事。2018/7にHR Tech、データ活用組織を立ち上げ、その後全社研修企画も兼務。2019/7より全社で新設された「第8カンパニー」の人事担当を務める。

面接力を上げる、これからの面接官研修とは

こんにちは。CANTERA ACADEMY3期卒業、能登隆太です。
採用、それはあらゆる企業が重視する、これからの企業の歴史を作る未来の社員と出会うための重要なイベントではないでしょうか。

やらされ感のある仕事をやりがいある仕事へ。「ジョブ・クラフティング」とは

こんにちは。CANTERA ACADEMY3期卒業、能登隆太です。皆さんは、レンガ積みの話をご存知でしょうか? 有名なイソップ寓話の「3人のレンガ職人」です。

マネジメント力強化方法の設計とトレーニング実務

マネジメント力強化。全ての企業における永遠のテーマと言っても過言ではないのではないでしょうか・・・。 上司のマネジメントのあり方はいつの時代も居酒屋での愚痴の大半を占めています(ですよね?)。それ程「マネジメント」とは難しいことなのだと思います。

ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)設計

先日、勤務先の企業理念が改訂されました。弊社の企業理念はミッションに置き換えられます。近江商人だった創業家より現代に至るまで引き継がれる「三方よし」の精神。たった四文字のこの言葉は一見すると何でもないただの単語ですが、その裏にある歴史的背景に思いを馳せた時、私たちがビジネスに取り組む時の羅針盤として機能しているように感じます。

組織を変えるグループコーチング

「組織変革」なんだか響きがカッコいいですよね!ただ、言うは易し行うは難し。

1on1の質を高める方法

主に上司と部下が1対1で対話する場である1on1。ヤフー株式会社での実施事例が世の中に広く認知され、今では数多くの企業が1on1を導入しています。直近ではコロナの影響でリモートワークが拡充したことで、上司と部下のコミュニケーション頻度を維持すべく1on1を新規導入する企業も増えており、どうすれば1on1の質を高めることができるかといったご相談を頂くことが増えました。