ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)設計

Writing by:能登隆太

先日、勤務先の企業理念が改訂されました。弊社の企業理念はミッションに置き換えられます。近江商人だった創業家より現代に至るまで引き継がれる「三方よし」の精神。たった四文字のこの言葉は一見すると何でもないただの単語ですが、その裏にある歴史的背景に思いを馳せた時、私たちがビジネスに取り組む時の羅針盤として機能しているように感じます。

MVVについて考える

数年先の未来さえ予測することのできない今、私たちにとって最も大切な一方、欠けているのはミッションやビジョンなのかもしれません。
これからの日本にワクワクできるか? 今の会社と自分の将来にワクワクできるか?果たしてどうでしょうか。何もビジネスだけではありません。恋人同士や夫婦間、家族にだってビジョンの概念は適用できますよね。

最近、数社のMVV策定をお手伝いさせて頂く機会に恵まれました。私は自社で約4年間、採用担当を務めた経験があります。その際、社員の中に根付く暗黙の了解や良く使われる言葉から採用メッセージを紡ぎ出し、自社のカルチャーを学生にわかりやすく伝えるような仕事もしていたのですが、MVV策定もほぼ同じプロセスだと感じました。

ただ、0からMVVを策定するのは初めての経験だったので慣れない部分はあったものの、何回か繰り返す内、どんな企業であってもMVV策定のプロセスや勘所は同じような気がしたのです。
どのようにMVVを策定すればいいのか、いつ策定すべきなのか、何に注意すべきか・・・そんな疑問を一緒に考えてみます。

そもそもミッション・ビジョン・バリューとは何か

実は統一された定義はないのですが、よく見聞きする整理は「CHROの原理原則〜人事は水を運ぶ〜」にも記載がある通り以下です。

・ミッション:社会的な使命
・ビジョン:ありたい姿
・バリュー:行動指針

一般的にはミッション→ビジョン→バリューの流れが多いですが、企業によってはビジョン→ミッション→バリューの順になっていたり、ミッションとバリュー、ビジョンとバリューといったように3つではなく2つだけ設定しているケースも多いですよね。

もちろん正解はありません。私がお手伝いさせて頂いた企業もミッションとビジョンが似通ったものになりそうということで、ミッションとバリューのみを策定しました。
大切なのは、自社のMVVに心の底から共感できる内容になっているか、経営判断に迷った時の拠り所になっているか、この2点ではないでしょうか。

あらゆる企業は何かしら社会に貢献するために存在しているはずです。頭をひねって0からMVVを作らねばと悩む必要はないと思います。
創業時の想いや背景、自社のビジネスを通じて提供したい価値、社員が大切にしている想い。既にそこにある、けれども言語化されていない抽象的な概念を言葉に落とし込むことで自然と社員にとって納得度・共感度の高いMVVが出来上がります。

MVVが言語化された時の皆さんのすっきりした表情といったら・・・
形式的にやろうとしても綺麗な言葉の羅列にしかならず、魂はこもりません。

何のためにミッション・ビジョン・バリューは必要なのか

起業直後で創業メンバーだけで組織運営を行っているタイミングではわざわざ労力をかけてMVVを策定する必要性はあまりないかもしれません。お互い事業を創り出す過程で十分なコミュニケーションを通じて想いや価値観は共有されているからです。

一方、ある程度事業が軌道に乗り始め、企業規模も拡大し始めるSeriesA,Bといったフェーズでその必要性に気づくケースが多いようです。
このフェーズでは社員数の増加に伴い、創業メンバーが直接マネジメントできる管理スパンの範疇を超えるため、社員の拠り所になるような会社としての幹が必要になります。まさにMVVの出番です。今まで伝わっていたことが急に伝わらなくなる、組織に一体感がなくなる、そんな状況を打破すべくMVVを皆で考え共通認識化することの重要性が高まります。

また、自社のカルチャーにフィットした人材を採用するためにMVVが必要になります。自社サービスやプロダクトを好きになってくれるだけではなく、カルチャーフィットするか否かは特に企業の成長フェーズにおいて最重要課題と言っても過言ではありません。

戦後直後の1946年、ソニーが設立趣意書で掲げた「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」という言葉。数多くの若者を引き寄せ、この会社に人生をかけてみたいと思わせたに違いありません。

どのようにしてMVVを紡ぎ出すのか

では、実務的にはどのようにしてMVVを策定すればいいのでしょうか。もちろん、このプロセスに唯一解はありません。ですが私の経験上、MVV策定の前に必ずやっておいた方がいいと感じたことがあります。

ステップ①:ミッション・ビジョン・バリューの言葉の定義を明確化する
自社にとってそれぞれの言葉がどのような意味を持つのかを考えましょう。その過程を通じて本当に3つ全て必要なのか、何のために自社はMVVを定めるのかを再認識することができます。
尚、参考までにそれぞれの語源は以下の通りです。
・ミッション:
ラテン語で「送る」などを意味する mitterが語源になっているようです。神がキリストを地上に送りこんだようにキリスト教を広めるために宣教師を世界各地に送りこむことを16世紀にMissionと称したのを皮切りに、宣教師をMissionary, キリスト教が建てた学校をミッションスクールといっていたとのこと。
・ビジョン:
vis-ionという単語の成り立ちから分かる通り、「見える」という原義があります。つまり、ビジョンとは他者がありありとイメージできるようなものである必要があるということです。
・バリュー:
これは言葉の通りかもしれません。Valueだと価値等の意味がありますが、Valuesになると価値観といった意味になります。どのような価値観を大切にするのか、自社の行動指針となるような内容になります。
自社においてそれぞれの言葉がどのような役割を持つかを明確化しましょう。

ステップ②:メンバーを決める
ベンチャー企業であれば創業者がいた方がいいと思いますが、基本は企業規模関わらず経営幹部が中心になるべきだと思います。企業の戦略や存在価値とMVVは密接に絡むからです。

ただ、経営幹部だけで「決めきる」必要はありません。経営幹部を中心にMVVの骨子を作りつつ、それ以外にもなるべく多くの社員にも参加してもらい、グループを分けて巻き込めるとベストでしょう。

MVVは社員にとって羅針盤のようなものです。現場社員も巻き込みながら作り上げることでより浸透しやすくなり、組織の一体感も高まります。どのようなプロセスでMVVを構築するかを最初に決めることで収集がつかなくなる事態を避けることができます。

MVV策定メンバーが確定したら議論開始です。

ステップ③:言語化とチャンクダウン
MVVを明確にするにあたっては以下のような方法があります。

・大切にしたい価値観等を明確にするための創業者/経営幹部インタビュー
・変わらない企業の価値観を探るための自社の歴史の振り返り
・共通の価値観や暗黙知を抽出するための社員インタビュー
・客観的に自社がどう見えているかを確認するためのステークホルダーヒアリング

この中では創業者/経営幹部インタビューが最も効果的だと感じています。インタビュー結果を通じて頻繁に出てきた言葉や大切にしている想いを洗い出します。それを元に表現を整理し、他メンバーも巻き込んで共感できる、本当に成し遂げたいと思える表現へ作り込んでいきます。

ただ、この過程が難しい・・・なので私はMVV策定のお手伝いをする際、創業者/経営幹部を中心とした関係者に事前に以下の問いに答えてもらっています。

Q1:あなたはなぜこのビジネスを立ち上げた(行っている)のですか?
Q2:経営者としてのあなたの信念は何ですか?
Q3:あなたは今の会社の事業を通じて誰に対して、どのような価値を提供したいですか?
Q4:どのような状態になっていれば、それが達成できたと言えますか?
Q5:サービス利用者からの最高の褒め言葉が届きました。さて、どんな内容ですか?
Q6:あなたが目標を達成するために大切にしたい価値観は何ですか?
Q7:その価値観を体現するために、あなたがすぐに実践できることを3つ教えてください。

実際の議論の場ではあえて各質問に対する答えを自分の言葉で改めて説明して頂きます。その時の表情や発する言葉のトーンによって何を大切にしているかを感じやすいためです。

そして何度も使われるキーワードや抽象度の高い表現についてチャンクダウンをします。チャンクダウンとは「塊を細かくする」という意味合いで、より具体化することを指します。よってあるキーワードについて、「それはどういう意味か。どういうイメージか」と私から問いを重ね、解像度を高めていきます。

ある程度、視覚的にイメージできるくらいまでの表現に落ち着いた段階で文章の前後の表現を調整し、違和感がないかを議論します。

ですが、必ず行き詰まるので笑、今後は具体化した表現に対して「もう一度戻りますが、それって要はどういうことなんでしたっけ?」と抽象度を高めます(これはチャンクアップと言います)。

具体化と抽象化を行き来することで無駄な表現が削がれ、自社で本当に大切にすべき内容に整理されていきます。いくつか似たような表現が出てくる可能性はありますがグルーピングした時にどの表現が一番しっくりくるかを考えると意外にすぐ決まったりするようです。

このようなプロセスを通じて、焦らず時間をかけてMVVを策定します。まさに、日々の生活やこれまでの歴史の中で語られてきた様々な言葉の中からMVVを「紡ぎ出す」イメージです。

ありありとイメージできるとはどういうことか

MVVは社員が心の底から「そうありたい!」と共感できるようなものでなくては意味がありません。ただの飾りにならないよう、徹底的に考えたいところです。

私は中学の国語の授業で、印象に残った言葉をノートに書き留めていくという宿題があり、それ以来、名言集を読むのが趣味になった時期があるのですが笑、個人的に一番素敵だと感じたビジョンはこちらでした。

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア氏
1963年8月28日 ワシントン大行進での演説の一部。

I have a dream that my four little children will one day live in a nation where they will not be judged by the color of their skin but by the content of their character.
私には夢がある。それは、いつの日か、私の4人の幼い子どもたちが、肌の色によってではなく、人格そのものによって評価される国に住むという夢である。

この時のスピーチ全体が素晴らしいのですが、何が素晴らしいかと言えば、言葉からその情景が明確に、瑞瑞しい程にイメージできるという点です。おそらくこのスピーチを聞いた誰もが同じような映像をイメージしたのではないでしょうか。

本当に魅力のあるMVVはこのように人々の心を動かします。MVVは決して「ただの言葉」ではなく、社会を動かし、人々に活力を与える、そんな力を秘めていることを信じることからスタートなのかもしれません。

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執筆者

能登隆太

CANTERA3期卒業生。
新卒で伊藤忠商事に入社。入社後は人事・総務部配属となり、新卒採用・海外人事(駐在員処遇、出向対応、現地生活調査等)に従事。2018/7にHR Tech、データ活用組織を立ち上げ、その後全社研修企画も兼務。2019/7より全社で新設された「第8カンパニー」の人事担当を務める。

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