何のためのキャリア自律か

最終更新日:2020/07/06

Writing by:流拓巳

今あなたがこの記事を開いた理由は何だろうか? 一行目で突然読む理由を尋ねられることはなかなか無い為、失礼な態度だと感じられたかもしれない。しかし、これがこの記事で一番重要なことだ。

自律を望む理由は何か

おそらく多くの方は「自分の組織のメンバーにキャリア自律を促したい。」もしくは、「自分がキャリア自律したい。」そう考えているから開いたのではないだろうか。

では「キャリア自律させたい(したい)」と考えている理由はなんだろうか?
「業務へのモチベーションを高めてもらうため」「自発的に能力を高めてもらうため」といったような理由をよく耳にする。
そのためにどのようなことがなされているかというと、スキルアップのための社内研修制度の充実化や、キャリア自律の重要性を説明する社内講演を開いている組織が多いように感じる。

私はそこに違和感を感じる。メンバーからの視点ではなく、経営者や人事からの視点で進められているからだ。
そもそもキャリア自律とはどのような状態か。おそらく明確な定義は存在しないが、概ね以下のような意味で用いられているように思う。

・組織ではなく個人が自分のキャリアに興味を持ち、自発的にキャリア開発を行う状態
・環境の変化に対応し続けるべく、個人が自発的な選択や継続的な学習を続けている状態

自発的にキャリア開発を行っているメンバーは業務で出せる成果も大きくなっていくことが期待できる。また、変化に強いメンバーが多ければ、結果的に組織としても変化に強い。これらの理由から、経営者や人事が、メンバーのキャリア自律支援を行うのではなかろうか。

では、自発的なキャリア開発を行なってもらえる環境を作る上で、または、環境の変化に対応できるように継続的学習を行なってもらえる仕組みをつくる上で、「自社」「社内」という概念が必要だろうか?私は、これらの言葉こそが、メンバーがキャリア的に自律することを阻害していると感じる。

経営者や人事からの視点だと、いかにキャリア自律を促し、その上で自社でのパフォーマンスを高めてもらうかを考えてしまう。そして、いつの間にか「自社でのパフォーマンスを高めてもらう」の部分ばかりに目がいってしまう。

私が毎年4月に自社に入社してきた新卒社員たちに一言目に伝える言葉は「入社おめでとう。そしてありがとう。」だ。

そして二言目も決まっている。「この後すぐにいくつかの転職サイトに登録しておいてください。」だ。場合によってはお勧めの転職サイトを尋ねられて丁寧に教えることもある。

毎年新入社員の半分には、ほんの一瞬だけ不思議な顔をされてしまうが、この一言があるかどうかで、キャリア自律を目指すことに対する当たり前感が大きく変わる。

・組織ではなく個人が自分のキャリアに興味を持ち、自発的にキャリア開発を行う状態
・環境の変化に対応し続けるべく、個人が自発的な選択や継続的な学習を続けている状態

どちらの点から考えても、一番避けるべき事態は、メンバーが会社の中という狭くて、優しくて、変化の少ない世界でしか物事を考えられなくなってしまうことだ。

私たち人事は、メンバーのことを大切にしなければならない。それは当然のことだ。だからこそ、組織の中ではキャリア自律は遅れてしまうというジレンマが発生してしまうのだ。例えば、フリーランスで稼いでいる方々は、多くの場合、組織に属する会社員よりも自分のキャリアを自分で考え、継続的に学習を続けているのではないだろうか?

では、どうしても大切にしてしまう組織内のメンバーに対して、どのようにしてキャリア自律を促すか。私なりにたどり着いた答えは、「自社」「社内」という考え方をできる限り、無くしていくことだ。

メンバーの思考のスタート地点が、「自社で」活躍するにはどのようにスキルアップすれば良いか?「自社の」中でどんな仕事をしてみたいか?になることをできるだけ排除するために、組織と世の中の境目を曖昧にすることだ。

先にあげた、入社直後に転職サイトへの登録を促すのもその一つ。上司からの評価を自分の市場価値だと勘違いさせないこと。自分のキャリアは社内で築くものだと勘違いさせないこと。そのために、まずは転職サイトへの登録を促す。

社内での評価が低くて、自分はどこに行っても活躍できないと勘違いしてしまうことは恐ろしい。
組織の特殊事情が本人のスタイルとマッチしていないことが理由で活躍できないだけのメンバーもいれば、その組織以外では一切通用しないスキルによって社内で活躍するメンバーもいる。

自分のキャリアに興味を持ち、キャリア開発を行なっていくには、まずは、今の自分の位置付けと、数十年先に選びうるキャリアの多様さを知らなければならない。転職サイトに登録すれば、自社では褒め称えられる実績が、誰にも興味を持ってもらえないなんてことは日常茶飯事だ。逆に、予想外の業界や職種のオファーが来たり、自社よりも高いポジションでのスカウトが届くことも普通に起こる。自分の現在地と可能性を知れば、行動したくなる可能性は高い。また、上司に言われたからという受け身な仕事ではなく、一つ一つの業務と、自分の価値や未来が紐付いてくる。

転職サイトへの登録に限らず、例えば研修であれば、自社でメニューを決めてしまうよりも、世の中に存在するあらゆる研修の中から、本人が必要だと思うものを選べた方が、自律につながる上に効果も高いだろう。

また、自分のキャリアを自分で考えなさいというメッセージを発しておきながら、社内での昇進や移動の仕組みが、会社都合で作られていては、誰も自ら本気で考えなどしない。自分で考え自分で行動するメンバーほど、チャンスに恵まれる設計になっていなければならない。

キャリア自律を促した先のあるべき企業像とは

このような状態を作ってしまうと、メンバーに辞められてしまうのではないかという声が上がるのは予想できる。しかし、そもそも「キャリア自律」と「メンバーの定着」は別の話だ。もちろん関連性はあるが、同じ話ではない。キャリア的に自律してもらうことで、モチベーションやパフォーマンスを最大化させたいのであれば、社員が広い視野を持ち、現状の部署や会社を離れることも選択肢の一つとして持つことは防ぎようがない。

その上で、自律したメンバーにいかにしてこの組織を選び続けてもらうかは、組織として別途努力しなければならないことだ。

いつでも転職できるメンバーに、それでも残りたいと思わせる企業になる覚悟がなければ、組織内のメンバーにキャリア自律を促すのは諦めた方が良い。

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執筆者

流拓巳

CANTERA2期卒業生。
立教大学経営学部2017年卒。 大学時代はエグゼクティブポジション特化のヘッドハンティング会社でインターン。
就活を経てガイアックスに内定後は、新規事業で内定者インターン。半年間CtoCマーケティングを担当した後、さらに半年間、関西拠点の立ち上げ責任者として大阪にある社長の実家に移り住み、採用、オフィス作り、営業統括、バックオフィス諸々。
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