リモートワーク導入時にマネージャーが注意すべきこと

Writing by:流拓巳

リモートワークを導入するにあたって、全員がオフィスで働いていた頃にはできていた何かが失われるのではないかと危惧する声をよく耳にする。環境が大きく変わる時、この手の不安はつきものだ。それは、何が何に変わるのか正確に理解できていないことからくる恐怖である。自然災害などの場合は、この『何が何に変わるのか』の部分があらかじめ予測でないので非常に怖い。

オフィスとは何か

しかし、リモートワークでの働きからの変化においては、起こる変化を先に定義することが可能だ。下記の2つの質問に答えてみてほしい。

・オフィスは必要だと思うか?
・オフィスの役割は何だと思うか?

実は私たちは、リモートワークのことをよく知らないだけでなく、そもそもオフィスについてよく知らないのである。上記の2つの問いに向き合うと、オフィスワークとは一体何なのか。そしてオフィスワークからリモートワークへの移行では『何が何に変わるのか』が見えてくる。

オフィスの機能

『オフィスの役割は何か?』という問いへの私なりの答えは二つある。

一つ目が『ワーキングスペース』としての役割。二つ目が『コミュニティ』としての役割だ。それぞれについて簡単に解説したい。

まずは一つ目の、ワーキングスペース、働く空間としての機能だ。オフィスには、社員が座ってパソコンを開くための場所や、ロッカーや金庫を設置し物を保管する場所、ドアを締めて会議を行う場所など、空間としての役割がある。リモートワークでは、この機能を自宅やカフェなど、別の空間が代替することになる。

次に二つ目の、コミュニティ、交流促進役としての機能だ。オフィスには、そこに集まってタスクをこなすという空間としての機能を超えて、交流という文脈でも価値を発揮している。例えば、毎日同僚や上司と顔合わせ、それによって刺激をもらえたり安心感をえたりできるという精神面での役割がある。また、オフィスにいることで誰かとの偶発的な会話が生まれたり、掲示物等から情報を得られたりすることで、新たなアイディアが生まれるケースや悩みが解決するケースもある。このように、業務を進めるのをサポートする副次的な効果もある。リモートワークでは、ITツールなどがこの役割を代替することになる。

『ワーキングスペース(空間)』と『コミュニティ(交流)』の二つの機能がオフィスに備わっており、リモートワークではこれらが失われる。それさえ理解できていれば、注意すべきことが明確になり、漠然とした不安を感じることもなくなる。そして、ワーキングスペースとしての機能は、デバイスや備品の入手で簡単にオフィスを再現できるので、特に恐れることはない。

問題は、比較的再現が難しいコミュニティとしての機能の方だ。

コミュニティが失われることへの対処法

では、オフィスワークからリモートワークに移行することで、コミュニティ面でどのような変化が起こるか。

理論上は、電話やチャット、web会議ツールでいつでもコミュニケーションが取れるので問題は起きないはずだ。しかし現実はそんなに甘くない。チームメンバー同士や上司と部下の間でのすれ違いは起きる。そのほとんどが、『自分の予想』と『周りの結果』が一致していないことによって生じる。

例えば、上司が頼んだはずのものと、部下が頼まれたと思ったものが違う。自分がもう6割進んでいると予想していた相手の仕事が、実はまだ3割しか進んでいなかった。このような不一致だ。これらを防ぐことができれば、オフィスワーク時よりもプロジェクトが進めにくいという問題や、上司と部下の間でマネジメントや評価に困るという問題は解消できる。

コミュニティとしての機能が失われたことで生じるすれ違いを防止するために、会社、あるいはマネージャーがするべきことには以下の3つがある。

・発信のハードルをとにかく下げること
・どこまで約束するか明確にすること
・何を支援できるか明確にすること

逆に言えば、この3つさえ果たされていれば、後はチームメンバー一人一人の努力次第で如何様にもできる。

発信のハードルをとにかく下げること。これは、会社や上司からの発信だけではなく、双方向に発信しあえる環境を作るということだ。誰でも何でも気軽に発言して大丈夫だという状況を作ることで、スタートの段階で何かがすれ違うことや、すれ違いの発覚が遅れることを防げる。

オフィスワーク時には、相手が座っているデスクに赴いて話しかけられたのももちろんだが、実は休憩スペースや喫煙所などがこの役割を果たしているケースが多い。休憩スペースや喫煙所で話されるような緊急ではない話、もしくは偶発的な話が飛び交っていることはすれ違いの防止や早期発見に役立つ。

チャットツールを導入しているのであれば雑談グループを作ること、特定の議題を扱うweb会議以外にテーマを決めないweb会議の時間を作ること、何か話したいことがあれば5分サイズの電話をすぐに行うことを推奨するなど、様々な方法がある。

どこまで約束するか明確にすること。これは、主に上司と部下や、依頼者と請負人の間でのすれ違いを無くしつつ、部下や請負人のパフォーマンスを最大化する上で重要だ。

上司や依頼主によって相手への業務の伝え方は様々だが、一挙手一投足のレベルまで指定して依頼をすることは稀だろう。つまり、依頼の中に、請負人側が判断する要素が発生する。この判断を委ねる要素と指定する要素を、明確に言語化すること。また、判断を委ねる要素について、どのレベルまでは自由を許容するのかを言語化すること。これらをはっきりと約束することが、細かい作業工程を目の前で目視しないリモートワークにおいては重要となる。

また、これにより、評価基準になる事柄とならない事柄が明確になるので、評価におけるすれ違いも解消できる可能性が高い。

何を支援できるか明確にすること。これは、リモートワークにおいてメンバーのパフォーマンスを最大化する上で、大きな武器になる。

基本的に、経営者と社員、上司と部下の間では情報に格差がある。それは必ずしも、経営者や上司が情報を隠しているから起こるわけではない。自分が存在を知らないものに関しては、たとえ隠されていなくてもたどり着くのは難しい。

例えば、あなたの会社にギリシャ語学習にかかる費用を会社で全額保証する補助制度があったとする。この情報を経営者や上司が意図して隠していなかったとしても、あなたが自力でこの制度にたどり着くことは難しい。会社に関する膨大な情報があり、業務やクライアントに関しても膨大な情報がある中で、偶然ギリシャ語学習補助制度を検索する可能性や、その項目が目に止まる可能性は限りなく0に近いだろう。

つまり、部下が自発的に会社や上司の支援を最大限引き出すのは非常に難しいのである。リモートワーク下では、会社や上司は必死にメンバーをマネジメントしようとするが、部下が自ら必要な支援を求められるように、会社や上司がメンバーに対して提供可能な支援を言語化、メニュー化することも、積極的なマネジメントに負けないほどのインパクトがある。メンバーが少ない選択肢の中から手段を選び、人知れず苦労し、結果的にすれ違うということも防げる。

さて、改めてまとめると、リモートワークへの移行で起こる問題の多くは、オフィスに備わっていたコミュニティとしての機能を補完できないことによって起こってしまう。そしてその問題のほとんどは、発信のハードルをとにかく下げること、どこまで約束するか明確にすること、何を支援できるか明確にすることの3つですれ違いをなくすことによって防げる。

会社が管理を強化しようとすることがだけが解決策ではないのである。

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執筆者

流拓巳

CANTERA2期卒業生。
立教大学経営学部2017年卒。 大学時代はエグゼクティブポジション特化のヘッドハンティング会社でインターン。
就活を経てガイアックスに内定後は、新規事業で内定者インターン。半年間CtoCマーケティングを担当した後、さらに半年間、関西拠点の立ち上げ責任者として大阪にある社長の実家に移り住み、採用、オフィス作り、営業統括、バックオフィス諸々。
2017年新卒入社後は、新卒採用担当、採用マネージャーを経験し、現在はグループ全体の人事支援部門を自ら立ち上げマネージャーを務める。

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