これから最低限必要な3つの組織マネジメント手法

最終更新日:2020/07/06

Writing by:酒匂光晴

リモートワークが過去最大の注目を浴びている昨今、人事としてもこれまでとは全く異なる施策を打ち始めている会社も少なくないでしょう。環境変化の激しい中では、変化についていくために新しい施策を早急に打つ必要があります。

はじめに

しかし、今回の緊急事態宣言に代表されるような環境面での急激な変化には、その場しのぎ的な対応を強いられている人事も多いのではないでしょうか。

いくつもの企業の人事サポートを請け負っている当社としては、こんな時だからこそ基本に立ち返り本質的な施策を打っていくことをオススメしています。なぜなら応急処置的な対応は一時的には必要ですが、その後には根本的な対応をしていかなければ、この後の不透明な時代を生き抜いていくことができなくなる可能性が高まるからです。

では、これからの組織が生き残っていくためにはどうしたらよいかというと、当社では最低限以下の3つの組織マネジメントを人事が主導して行っていく必要があると考えています。その3つとは、

1)ダイバーシティ・マネジメント
2)エンゲージメント・マネジメント
3)モチベーション・マネジメント
です。

全ての名称について人事であれば知っている方がほとんどだと思いますが、現在社内でどのぐらい運用されているでしょうか。重要なことは上記3つを本当の意味で「実践」していること、そして経営にとって必要な「成果」が上がっているかどうかということがポイントになります。

人事は人と組織をつくる

さて、そもそも人事の仕事とは何でしょうか。大前提から捉え直すと人事とは経営の重要な機能であり、経営の4大資源である「ヒト、モノ、カネ、情報」の中でも最も扱うのが難しいと言われている「ヒト」を扱います。

企業が掲げる経営目的であるミッション=経営理念を実現していくための重要な資源であり仲間である人を扱い、ミッション達成に向けた組織を創り上げていくのが人事の役割なのです。

そんな人事がこれからの時代に必須で取り組むべき最低限の施策が前述の3つであると考えています。
もっといえば上記3つの施策を人事「だけ」で行うのではなく、経営・現場を巻き込み、連携しながら進めていくことが重要です。具体的なTIPSを含んだ事例については個別の記事にて紹介していきますが、本記事ではそれぞれの特徴と押さえておくべき考え方について触れていくことにします。

ダイバーシティ・マネジメント

ダイバーシティについては一昔前から認知されているため、ほとんどの企業で実施している施策のひとつではないでしょうか。念のため意味をおさらいするとダイバーシティとは「多様性」を意味します。

ただ残念なことに、ダイバーシティというと日本ではいまだに「女性活躍」や「外国人採用」という文脈で捉えられることが多く、個別の採用枠や労働枠を用意しているだけで、組織的にうまく機能させ生産性や創造性を高められている企業はまだまだ少ないのが現状です。

本来のダイバーシティとは「ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包括)」であり、人はそれぞれ個別で多様であるという前提から、個人の特性を優劣ではなく違いだと認識することからはじまり、その多様性を認め活かすことで、これまででは表に出てこなかった視点での発想や化学反応を生み出し、創造性や生産性を高めたりイノベーションを起こしていくためのマネジメント手法のひとつです。

そういう意味でダイバーシティを実現していくためには、旧来の日本企業が得意としてきた上意下達の「管理型」の枠にはめるマネジメントではなく、個々の特性を認め可能性を信じ活かしていく「委任型」のマネジメントに組織を切り替えていく必要があります。

組織の形態もトップダウンよりもよりフラットに近く、中央集権よりも自律分散に近くなります。トップダウンの組織では言われたことを忠実に行い規律を守ろうとする社員は増えますが、創造や変革を生み出そうとする社員が育ちにくいという特徴があります。経営幹部育成で頭を悩ませている企業のほとんどがトップダウン型であるとも言われています。

一方、フラットとまではいかなくとも、実際に権限移譲を進めてみたり、提言できるようにしたり、情報を見える化してコミュニケーションを活性化させるなど、トップダウン、ボトムアップ、ミドルアウトを上手に組み合わせることによって社員の自律性を高め、リモートワークの環境下においても自律的に生産性高く仕事を行う社員が育っている企業が増えているという現実もあります。

これは余談ですが、最近のリモートワークの環境下において、「管理型」のマネージャーが部下が真面目に業務を行っているかどうかが信じ切れず、管理どころか監視するようなマネジメントで上司部下ともども疲弊してしまうという笑い話のような本当の話が話題となりました。ダイバーシティが本当の意味で機能していない会社ではリモートワークでは生産性が高まるどころか下がってしまうという可能性を示唆した一例であるようにも捉えられます。

ダイバーシティ・マネジメントを実践するということは、人の可能性を信じることで企業の可能性を最大化することであり、結果企業のミッションに向けた、創造性と自律性に溢れる人と組織を作るという「成果」をつくりだすということでもあるのです。

エンゲージメント・マネジメント

エンゲージメントについても一昔前から認知されている言葉ではありますが、意味としては「従業員の会社に対する愛着心」です。ただエンゲージメントについても誤解が多く、よくあるのは「従業員満足度」と混同されがちです。

従業員満足度とエンゲージメントはイコールではありません。ではそれそれ何が異なるのかというと、従業員満足度は言葉の通り従業員が会社に対してどのぐらい満足しているかという顧客満足度のような指標ですが、エンゲージメントはそうではありません。

エンゲージメントとは「従業員が会社に愛着を持ち、目標達成に向けての行動を自律的に行う状態」であり、もっと言えば「会社と個人が対応な関係であり、互いに成長・貢献し合える関係として必要とし合っている状態」と言えます。そのため、従業員満足度が高くても会社の生産性や定着率とは連動しないことがあるのに対して、エンゲージメントが高い会社は生産性や定着率が高くなる傾向が強いと言われています。

では、このエンゲージメントを高めるためにはどんなポイントを押さえればよいのでしょうか。エンゲージメントについては様々な機関によってそのポイントが提唱されていますが、当社ではまずはシンプルに以下の4STEPでサイクル化することを推奨しています。

STEP1)所属感…周囲から認められ、この組織に属している、この仲間といて安心だと認識している(安心安全の場づくり)
STEP2)所有感…自身の仕事の意義や価値を理解し、組織や顧客に自分が良くも悪くも影響を与える存在だと感じている(自社を自分のものにできる)
STEP3)貢献感…自組織や仲間に対し貢献したいと考え、実際に貢献し、周囲から認められている(与えてもらったものを返したいという相互依存関係)
STEP4)成長感…自組織や仲間への貢献のために、より成長したいと考え、実際に成長に取り組むことで成果が得られ、成長感を感じられている(相互依存が成長を生み出し、成長が周囲に認められる)

上記のサイクルを回す職場づくりをすることで、個人と組織がともに与えあい、貢献し合い、成長し合うという、自律的な相互依存関係が生まれます。詳細は個別の記事でも記しますが、例えば「エンプロイー・エクスペリエンス・ジャーニーマップ」と呼ばれる、従業員が採用面接から入社、オンボーディング、配属、実務、成果、評価、異動昇進、退職というプロセス毎にどんな体験を提供することでお互いに良い関係になれるかという設計図を作成するなどしながら、実際に施策を打っていくことが求められるでしょう。

モチベーション・マネジメント

さて、突然ですが質問です。

「あなたは自分の部下や身近な同僚がなぜ自社で働いているか、その理由を知っていますか?」

この質問に対し、明確に答えられる方は非常に洞察に優れ、また相手を理解する能力にたけた方でしょう。ただしほとんどの場合はすぐに思い浮かばない方が多いのではないでしょうか。

モチベーションとは意味としては「動機」「意欲」であり、従業員は必ずこのモチベーションも持っています。モチベーションが適切に作動すると人は信じられないぐらいの能力や集中力を発揮し、生産性が非常に高まると言われています。

しかしモチベーションは一見すると表面には見えにくい場合や、モチベーションが適切に作動しない環境を会社自体が提供してしまっている場合もあります。そのため、人事はこの従業員のモチベーションの源泉を理解し、適切にマネジメントを行い、経営の「成果」を高めていくことが求められます。

そもそも、人が働いているには必ず理由があります。そしてその理由は人によって異なります。
例えば、働くことによって何かの報酬を受け取ろうとしている場合、報酬と一言で言っても何を報酬と感じるかは人によって異なります。報酬の中には給与・待遇・地位・名誉などの「金銭的報酬」と言われるものだけでなく、承認欲求・親和欲求・貢献欲求・成長欲求などの欲求を満たす「意味的報酬」があります。似たような意味の言葉で「外発的動機付け」や「内発的動機付け」も良く聞く言葉ですね。金銭的報酬は外発的動機付けに近く、意味的報酬は内発的動機付けに近いというものです。

どちらがいいとか悪いとかいう話ではなく、人は何に動機を感じるかは人それぞれであるため、まずは従業員それぞれのモチベーションの源泉を理解することによって、会社としてどんな施策を打つかが決まってくるということです。

人事としてやるべきことは、従業員の人間性や働く動機を本質的に把握し、その情報をもとに社内制度や採用・育成手法の変更、ダイバーシティやエンゲージメントの向上に活用していくことです。

おわりに

ここまで、これからの人事が必須で取り組むべき3つの組織マネジメントとは、について記してきました。
この3つだけやればよいというわけではありませんが、これからの人事に求められる経営視点での人事、戦略人事として機能していくために意識しておくと良いと思われるポイントをまとめさせてもらいました。

すでにお分かりの通り、この3つは全てリンクしており、それぞれに影響を及ぼしています。企業にとってのゴールであるミッション・ビジョンに向かって、人と組織をどう作り上げていくのか。目の前のことに対応するだけではなく、経営目線で組織を創り上げていく人事を目指す方々への少しでも役に立つ記事となれば幸いです。

おすすめ記事

自己主張型人材の活躍と組織文化形成

私は、業務でクリニックの事務長として採用・経営・人事の面で院長をサポートしています。そこで取り組んでいる自己主張型人材へのマネジメントについて、書かせていただきます。

ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)設計

先日、勤務先の企業理念が改訂されました。弊社の企業理念はミッションに置き換えられます。近江商人だった創業家より現代に至るまで引き継がれる「三方よし」の精神。たった四文字のこの言葉は一見すると何でもないただの単語ですが、その裏にある歴史的背景に思いを馳せた時、私たちがビジネスに取り組む時の羅針盤として機能しているように感じます。

【CANTERA talk】アースメディア代表松本淳さんに聞く「今の人事に求められる「人間性」という1つの大切なスキル」

CANTERA NOTEでは、人事領域で活躍される著名人をお招きし、人事パーソンの学びとなるお話をうかがいます。

今回お招きしたのは、一般社団法人アースメディア代表の松本淳さんです。松本さんは、インテリジェンスの創業拡大期に入社後、人材系の会社を起業、拡大後にM&Aで事業譲渡し、現在は国内外の起業家育成に力を注いでいます。また、松本さんのTwitterはビジネスパーソンから人気を集めており、読者のなかには松本さんのTwitterから学びを得ているという人もいるかもしれません。

そんな松本さんに、今の人事に求められる能力や戦略人事リーダーに求める経験やスキル、松本さんが理想とする人事パーソンについてお話をうかがいました。

【CANTERA修了生✕堀尾司】 社会人15年目・HR1年目の水越裕太郎さんが目指すCHROへの道

CANTERAでは、人事領域で活躍している人はもちろんのこと、人事未経験の人も多く学んでいます。 CANTERAアカデミー修了生の水越裕太郎さんもそのひとりです。水越さんはマーケターからHR領域へと半年前に転向し、CHROを目指しています。

今回はCANTERA代表である堀尾と水越さんが対談。水越さんがCHROを目指したきっかけや理想のCHROになるための経験の積み方、水越さん自身が掲げるミッション・ビジョン・バリューや3600人のフォロワーを抱えるTwitterとの向き合い方など、とことんお話をうかがいました。

さくらインターネットの人事ポリシーと私のマネジメント

「社員を信じる」マネジメントの役割は、メンバーの強みを引き出し、自己肯定感をあげ、幸せにすることなのではないでしょうか。そう考えれば、マネジメントは喜びに満ち溢れた仕事になります。

執筆者

酒匂光晴

CANTERA9期生。
リクルートグループの人材領域事業にて営業、営業企画、商品企画、代理店統括などに携わり、営業マネジメント、事業マネジメントを経験。その後、フリーランスとして活動しながら、数社のスタートアップの立ち上げ、営業責任者、役員を歴任。
2019年3月にカエテク株式会社を創業、代表取締役に就任。「幸せを実感できる社会を創る」をミッションに、企業の存在意義をクライアントとともに捉え直し、理念経営を起点とした人材採用、組織づくり、人材育成を展開。コンサルタント、講師、ファシリテーター、講演家。おもてなしNPO運営。旅行・食べ歩き・飲み会・楽しいことが好き。基本的にアホで自由人。

「採用力の公式」から自社の採用戦略を問い直す

「採用活動がうまくいかない」「年々、採用単価だけが上がっていて、採用目標に届かない」「せっかく採用した人材が、ミスマッチで早期に辞めていく」そのような悩みを持つ企業は少なくないのではないでしょうか。

自社にとってのベストな採用活動を進めていくためにはどうしたらよいのでしょうか。

強い組織や採用育成につながる「モチベーション・マネジメント」

さて、突然ですが質問です。
「あなたは自分の部下や身近な同僚がなぜ自社で働いているか、何に興味関心があるのか、それぞれの人のことをどこまで理解していますか?」

生産性が高い職場をつくるための「エンゲージメント・マネジメント」

先日の記事「これからの中小企業に必要な3つの組織マネジメント手法」にて紹介した2つ目のマネジメント手法が「エンゲージメント・マネジメント」です。
エンゲージメント自体は一昔前から認知されている言葉ではありますが、念のため確認すると意味としては「従業員の会社に対する愛着心」となります。
しかし、「エンゲージメント」については誤解が多く、よくある間違った認識としては「従業員満足度」と混同されがちです。従業員満足度とエンゲージメントはイコールではないのです。

「心理的安全性」がチームの多様性と生産性を高める

ダイバーシティ&インクルージョンを推進し、本当の意味で多様性に溢れ、創造性と生産性が高いチームにするためには、「心理的安全性」が非常に重要なキーワードとなります。
いわゆる「女性活躍」や「外国人採用」という文脈を超え、本質的なダイバーシティ推進による強い組織をつくるにはどうしたらよいのでしょうか。

これから最低限必要な3つの組織マネジメント手法

リモートワークが過去最大の注目を浴びている昨今、人事としてもこれまでとは全く異なる施策を打ち始めている会社も少なくないでしょう。環境変化の激しい中では、変化についていくために新しい施策を早急に打つ必要があります。