キャリアの「自立」と「自律」

最終更新日:2020/07/06

Writing by:森 友也

「自立」は自分の意見で一方的に主張するのに対して「自律」は他者との調整を図りながら、自らを律することとして区別し「自律型人材」は組織の進退に大きく影響している。

自立と自律の理解を深める

リクルートワークス研究所の「キャリア自律」では、自立と自律を以下のように区別しています。
以下抜粋
始めに、従来「管理される」側にあった働く個人に「自律」が求められていると言われて久しい。この「自律」は「自立」と混同されることが多いが、他者との調整を図りながら「自らを律し」つつ、自己実現を達成することを意味する点で、自分の意見をもち、一方的に主張する状態を表す「自立」とは区別されるべき概念である。昨今この「自律」概念が、その個人主義的意味合いを帯びた言葉の響きからか、各分野においてもてはやされている傾向があるが、コンセプトとしての「自律」が人気を博している一方で、「自律型人材の必要性」はレトリックでも啓蒙的思想でもなく、組織構造の変化に伴う必然的な要請であり、自律的人材の創出の有無が組織活動の進退に大きく影響を与えることを示す研究が近年出現している。
 
短く言えば、人事制度改革や組織改革が共通してフラット化・プロジェクト化の方向性を辿るに伴い、従来組織で働く個人を動機付けてきた「外的成長基準」(i.e. 終身雇用を基礎とし た序列・昇進・年功序列による報酬格差など)の価値を維持することが不可能になりつつあり、自発的な動機付け要因(「内的成長基準」)に基づき成長し、成果を創出する「自律型人材」が著しくその重要性を高めてきたということである。
つまり、「自立」は自分の意見で一方的に主張するのに対して「自律」は他者との調整を図りながら、自らを律することとして区別し「自律型人材」は組織の進退に大きく影響している。その「自立型人材」を育成・成長させるには「自発的な動機付け要因(内発的な動機付け)」によって創られると言っています。
 
組織を強くしていく「人事」の役割は、より一層、組織の中で「自律的人材をいかに育てていくこと」が大きなキーワードとなっています。
一方「個人」にフォーカスした「キャリア自律」という視点からも考えていかなければなりません。

キャリアは働くみんなの問題

「働くひとのためのキャリア・デザイン」著:金井壽宏[2001年]では「キャリアは長い期間働くつもりがある限り、みんなの問題だ。途中で育児や病気などの事情でしばし仕事の世界から退くことがあっても、トータルで何十年にも渡って働くつもりなら、そこにキャリアという軌跡が存在する。」と始まります。
さて、「個人のキャリア・デザイン」と言われたときに、どのようなことを思い浮かべるでしょうか?

  1. 長期にわたることなので、不確実でデザインしようがない
  2. なにが起こるかわからないので、偶然に身を任せたほうが良い。
  3. いつも、キャリアの問題を考えているのはうっとうしい。
  4. 時代は、働く個人にキャリアについて考えるように要請し始めている。
  5. 節目のときだけは絶対に強く意識してデザインすべきものがキャリアだ。

本書の金井氏は「せめて節目だと感じるときだけは、キャリアの問題を真剣に考えてデザインするようにしたい。節目さえしっかりとデザインすれば、あとは流されるのも、可能性の幅をかえって広げてくれるので、O Kだろう。」と、連続的に働く人生の中ではせめて、節目節目においてはしっかりと「キャリア」について考えていくことから始めよう。と伝えています。

節目ではキャリアは誰しもの問題となります。就職活動している学生は、キャリアの入り口に立っていますし、ミドルのひとは、ちょうどキャリアや人生の半ばで、自分の歩みを振り返り、将来の展望をするときキャリアについて自問していることになるのです。転職を考えているひとは、年齢にかかわらず、新たな節目を潜るキャリア上の選択に迫られていて、それを機に、自分探しを本格的にしていこうとしている状態であると言えます。

最初の上司との相性が「キャリア」に大きく左右する?

社会学者によるキャリア研究以外にも、経営学のキャリア論、産業組織心理学におけるキャリア研究の中に、他者とのつながりを重視する説が展開されています。名古屋大学の若林満、慶應義塾大学の南隆男両教授による理論的研究であり、米国ジョージ・グレーンとともに実施したV D Lモデル(Vertical Dyad Linkage)というオリジナルな概念は、直属の上司部下がキャリアにとってどのように影響するかという疑問について以下のように結論つけています。
「VDL」とは、直訳すると「タテの二人関係におけるつながり具合」ということになりますが、要するに直属上司との関係の良さを指しています。「最初の配属でどのような上司につき、その上司とどのような関係にあったかが、入社後の適応に、さらにはその後のキャリア発達に(場合によっては、かなり長期的に)影響してくるのではないか?」というのが調査のきっかけでした。実際に、例えば、最初の配属先の直属上司といい関係を築いている新人たちのほうが、適応状態がよく、また、入社直後の幻滅感(リアリティ・ショックとも呼ばれる)も緩和されたという研究結果になりました。

日本での研究においても驚くべきことに、初期の適応だけではなく、二十五年フォローしても、最初の上司との相性の良さが大きなインパクトを持っていたということが判明したのです。
皆さんが今後、成功したキャリアを歩み、「私の履歴書」に書くことになったときには、最初の上司の名前を上げて「今日があるのは〇〇氏のおかげです」と言ってもなんら不思議はない。ということになるのです。
「人事」の視点においても、「個人のキャリア」を考えたときには、最初の配属先である上司と部下の関係性は最も重要であることを忘れないでください。
それが自社の組織の進退に大きく影響する「自立型人材」の育成につながるのです。

「キャリア」を考える3つの問い

この項では、「個人のキャリア・デザイン」を考えていく上で実際に活用できるフレームワークをご紹介します。ミドルキャリアのひと、学生、どちらでも節目をくぐる時に、自問することになりますし、さらに今後は相互に関連する問いがあります。それはさらっと答えるには優しく、真剣に考えると結構難しい問いになりますが、以下の2つのフレームワークはそんなキャリアを考えるときのヒントになるので、是非使って欲しいと思います。

「シャインの三つの問い」

  1. 自分はなにが得意か。
  2. 自分は一体なにをやりたいのか。
  3. どのようなことをやっている自分なら、意味を感じ、社会に役立っていると実感できるのか。

1は自己の能力・才能について、2は動機・欲求、3は意味・価値についてを問う内容となっており、他人がどのように自分のことを思っているかではなく、自分が自分をどのように捉えているかを問う質問です。三つの問いにまず、走り書きのメモ程度で良いので答えてみましょう。キャリアの内省に役立つフレームワークとなります。

「アーサーの三つの問い」

  1. 自分ならではの強みはどこにあるのか。
  2. 自分があることをしたいとき、それをしたいのはなぜか。
  3. 自分はこれまでだれと繋がり、その関係をどのように生かしてきたか。

1は自己の知識と技能、2は自分ならではのアイデンティティや信念、そして3つ目は対人ネットワークに関連している質問です。「アーサーの三つの問い」は「自分についていったいなにを知っているか」という観点から自身を内省することを目指しているのです。

シャインにせよアーサーにせよ、転職を考えるひとは、最初の就職先やこれまでの職場に、なにを求めていたかを棚卸しして見直し、そして将来を展望する上で、新しい入社時のことを想起してほしいと思います。それをしなければまた次から次へと職を変えることになってしまうことになるかもしれません。事前に計画して自分なりに切り拓くキャリアが王道と言われますが、これまでの歩みを意味付けるだけで、将来が見えてくるという点においては、シャインやアーサーの問いかけは、とても有効に使えるフレームワークとなるでしょう。それらを節目である「今」を自分に対して問いかけ、キャリアをデザインしていけるようにしてください。

「7つの習慣におけるキャリア自律」

S・コービーの「7つの習慣」は、「人の発達は依存から独立で終わるのではなく、独立からさらに相互依存へと展開されうる。自分も自律的に振る舞い、他の人が自律的に振る舞うのを認め、ともにより自分らしく生きるために相互依存しながらやっていけるとしたらそれは素晴らしいことだ。」と言っていますが、「7つの習慣」におけるキャリア自律は第一の習慣である「主体性を発揮する」から始まる。まさに、「キャリア」について当事者意識を持ち、だれからの指示を待つわけではなく、自ら関心の輪を広げていくことが「キャリア・デザイン」の基礎となると教えてくれています。

これからも「人事」として、また「働く自身のキャリアデザイン」について、「組織」と「個人」という視点から見つめて頂ければと思います。

参考文献:
・「キャリア自律」ミドルにおける有効性―有効性の条件をミドルの語りから探る― 島田 歌 リクルートワークス研究所・客員研究員 2008年
・「働くひとのためのキャリア・デザイン」 金井壽宏 2001年 PHP新書

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執筆者

森 友也

CANTERA3期卒業生。
大学卒業後、モバイルサイト広告営業を経て、生損保事業で独立。介護施設開発営業や介護運営コンサルティング事業を経験し、(株)フェニックスで事業統括責任者執行役員へ就任。29歳でグループ会社(株)ユニコーンを設立し代表取締役に就任、事業譲渡。2018年8月東証1部上場(株)ショーケース・ティービー(現ショーケース)へ入社。職業紹介事業・HR-Tech事業部の新規事業開発へ携わった後、経営企画本部へ異動し経営企画部長として経営管理・予実管理・情報システム・IR・PR広報を管掌し活動中。FFSパーソネルアナリスト1級。

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