リモートワークと労働生産性を考える①

最終更新日:2020/07/06

Writing by:上川 宙士

筆者はこの数ヶ月、ウェビナーと呼ばれるオンラインセミナーに多数参加させていただきました。時節柄リモートワークに関する内容が多くの場で議論や対話が行われています。その中で頻繁に上がるワード「生産性」。リモート前提の働き方が労働生産性(以下生産性)向上に寄与するのか考えていきたいと思います。

結論といたしまして

企業ごとに経営スタイルは異なりますのでYes or Noで答えられる絶対的な解はございません。そして企業や部門により生産性を上げる方法も異なるからです。
作業効率を上げることで生産性を上げる企業や部門は、社員のストレスを軽減できるのであればリモートワークは有効でしょう。ただし0から大きな価値を生み出すような企業や部門は判断が難しいところです。偶発的なコミュニケーション、ちょっとした立ち話、タバコ部屋から始まるイノベーションなど、人と人が限定空間の中からでのみ作り出す価値もまたあると思います。PCのモニター越しでも人と人はコミュニケーションが築けますが、リアルな場で偶然から生まれるアイデアを生み出すのはリモートワークオンリーでは難しいのかもしれません。

本稿ではリモートワーク環境のもとでの企業文化と企業風土、企業の透明性、コミュニケーションについて生産性向上との関連を述べて参ります。
企業ごとの経営スタイルは異なりますが、少しでも参考になる項目がありましたら幸甚です。

企業文化と企業風土

リモートワークか否かという議論以前に重要な要素として、企業文化や風土について忘れてはいけません。メンバーが安心してどこででも働ける企業文化がなければ、リモートワーク環境においても監視というマイクロマネジメント強化を各部門は進め、メンバーの安心感は従来以上に下がります(せっかくリモート環境で自分のペースで集中できると思ったら、従来より細かく監視するような部門では安心感は下がるでしょう)。それではストレスが増し生産性の向上も期待できません。

1.一貫して大事にすべきポリシーとは
人事ポリシーとして忘れてはいけないことは「ピープルファーストと安全安心」と答えられた人事責任者の方がいらっしゃいました。オフィシャルの場でこれを口にできる責任者はどれだけいらっしゃるでしょうか。なかなか多くはないかと存じます。

2.ビフォーコロナの段階でリモート向け文化を内包するインフラは構築されているべき
元々リモート非推奨であった企業でのお話ですが、元々その企業は「ワイガヤ」という「文化」がきちんと作られており、メンバー間でコミュニケーションをとりやすい環境が構築されていました。その文化があったので、物理的な距離は離れましたが、コミュニケーションは密に取れる間柄が大半なので、即時リモート対応に移れたとのお話でした。

3.経営者が重視するべきこと
企業は何を大切にするか。それはESとCSを重視すると答えられた社長がいらっしゃいました。社員と顧客を大事にするということです。経営者は意思決定の優先順位付けと、性善説で社員との関係性を築くことを大事にすべきとのお話でした。

透明性と信頼

企業に透明性と信頼があってはじめて生産性は高まるとおっしゃる経営者の方がいらっしゃいました。透明性や信頼に反する行為で企業価値を毀損したりするケースは古今東西後を絶ちません。
リモートワークでの労働環境には透明性と信頼が前提にあるとして以下述べて参ります。

1.コロナにより業績悪化が発生し不安を持った社員に対する解はあるか
企業の透明性が大事と考え、メンバークラスの社員にも経営情報を与え、不安を解消させます、と答えられていた人事責任者の方がいらっしゃいました。その企業はデイリーでビジネスの状況(受注数値など)が社内イントラで誰でも把握できるそうです。企業の現状を社員全てが把握でき、安心できる環境を整備することが大事ですね。

2.企業への帰属感について調査することも大事
リモートワークが続くと「どこの企業で働いているか、どこに所属しているか」社員の認識が希薄化してしまいます。
全社集会を定期的に実施している企業があり、今般リモートワークによるオンライン化を余儀なくされましたが、場所や人数に制限がないので実質運用がしやすくなったと担当者の方から伺いました。
またその企業では従業員サーベイで経営側の発信が従業員に届いているか透明性をチェックしているそうです。オンライン社内報を継続的に刊行し、また経営者による動画配信を始めたそうです。経営者が配信する動画は社員が興味を持ちやすく視聴率も高いとのことです。

3.リモートワーク長期化による社員の信頼残高低下への対策
「雑談」が信頼残高低下に対応するツールの一つと考えている企業がありました。雑談の場としてオンラインランチなどボトムアップ施策をするなどの工夫もされているようです。食事はメンバー間の関係性構築に適しており、社員は帰属感を醸成することが出来、結果企業との心理的な距離が離れることを防止できるでしょう。
ただしそれでも解消できないことはあるようです。それはオンボーディングのようです。新しく入ってきた社員は一から信頼残高を積み立てるのが今の状況ではきついようです。新しく入社する社員の心理的安全をいかに担保できるかが課題です。

4.リモートワークにおいて大事にすべきマインド
1)社員は自律すること。企業から疑われないことが大事です。
2)企業は社員に対して性善説で臨み、オープネスを実現する。お互い信頼できる関係性の構築が大事です。
3)リモート環境を楽しむマインド。環境に対して前向きに捉えるマインドが大事です。

5.人事制度に力を入れる
ウィズコロナ時代を見据え、多様性に対応する社内の仕組みやマインドセットが人事にも必要となります。仕組みや共通言語化のガイドラインを構築しないとメンバー同士の信頼が構築できず、企業は正しくスケールアップできません。

6.人事メンバーのマインドセットの変化
不確実さが増した世界だからこそ企業は自社の存在意義に立ち返ることが重要です。ミッションバリューを改めて考えることが大事です。変わらない軸は何ですか?との問いを常に繰り返しましょう。

コミュニケーション

リモートワーク環境での社員間コミュニケーションは何のためにあるのでしょう。結論としては、メンバー同士がそれぞれ近くにいることを実感し、皆が安心感を醸成するためと考えます。その為には企業は何をすべきでしょうか。

1.ニューノーマルを受け入れてもらう
多くの社員がリモートから元に戻ると考え、今現在はその環境を我慢している企業も多いようです。
そういった社員の方々にもリモートワークが当たり前になる時代を迎えると理解してもらうことが必要になります。考え方を変えることはなかなか難しいですが、オンラインでコミュニケーションをとる風土を構築することで生産性向上につながる可能性もあります。

2.新たなコミュニケーションルールを設ける
会議においては発言するという責任を設けたという企業がありました。企業に頼るだけではなく、社員の自発性も大事ですね。

3.1on1におけるコミュニケーションで工夫する
繰り返しになりますが「雑談」が大事です。セールスでもアイスブレイクは重要なコミュニケーションです。
MTG所要時間に関しては30分程度ですと業務の進捗確認で終わってしまうので、45〜60分ほどの時間を用意することが望ましいようです。週1回はメンバーと上長でつながる時間を設けることが必要でしょう。時間をしっかり担保することで安心感を作ることにつながります。

4.メンバー間で「対話」をする
他のメンバーの意見を非難せず受け入れる対話を実施し、その上でどの意見を行動に移すべきなのかメンバー全員で決めていく環境づくりが重要です。どのような意見でも自分はメンバーに受け入れられているのだという安心感や、意見を出すことによる社員自身の成長にもつながります。ただし参加者は学習し続けることが必要です。学習しないことにより成長を止めたメンバーが参加し意見を述べることは、時間の無駄につながります。そして注意点として誰か声の大きい人が結局最後は場を持っていくという、メンバーが白けることは避けねばなりません。

5.上司部下のラインだけではなく、利害関係のない間柄でのコミュニケーションを推奨する
全てのマネージャーがリモートコミュニケーションに長けているわけではありません。斜めの関係(利害関係がない間柄)の社員同士では情報量を増やすことも重要です。他の部署で発生した悩みや事例を共有することで、メンバーが狭い部門だけでなく企業全体という大きな存在の一員になっている感情が生まれる効果もあるようです。
上司は自分の部下が他のマネージャーと仲良くしている姿に嫉妬してはいけません。

6.新たなコミュニケーションツールを導入する
社員が不平を言える「場所」を明確に作っている企業もございました。Slackを導入し不平を言えるチャンネルを作っているそうです。Slack上では偶発的に「会話」が発生します。不平不満なので議論ではなく大方対話になります。
その企業は経営会議の議事録や意思決定プロセスも公開しているとのことですので、企業の実情を知ることで上記透明性の項の要素も合わせ安心につながるのでしょう(知ることで不安が増す可能性もありますが)。

7.人事部も社員とコミュニケーションをとることがある
人事部は一日中他者とコミュニケーションがない社員がいないか注意しましょう。いきなり人事部が介入するとその社員は驚いてしまうので、マネージャーを通じて把握するとよいでしょう。

8.オンライン飲み会を開催する
まだオンライン飲み会の空気に慣れておらず、苦手意識がある社員も多いようです。まずは会話の口実を誰かが用意します。インテリアネタ、持ち寄った酒やおつまみの自慢、部屋着、家族(子供)なども話題でアイスブレイクする。普段見ることができないシチュエーションは同僚のイメージに新鮮さを加えます。

次回②ではリモートワーク環境のもとでの動機付け、ストレスへの対処、マネジメントについて生産性向上との関連を述べて参ります。

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執筆者

上川 宙士

CANTERA6期生。
オートリース⇨人材紹介⇨イベント運営⇨人事周りへの商材を経験。
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