リモートワークと労働生産性を考える③

最終更新日:2020/07/14

Writing by:上川 宙士

前回の記事(リモートワークと労働生産性を考える②)では動機付け、ストレスへの対処、マネジメントについて生産性向上との関連を述べて参りました。本稿ではリモートワーク環境のもとで求められるスキル、あるべき評価、オフィスの要否、社員への手当について生産性向上との関連を述べて参ります。

スキル

ウィズコロナの時代において社員に求められるスキルとはなんでしょう。何が変わるのでしょうか。

1.論理的な思考、データ活用力、言語化能力がより重要となる
可視化・数値化・言語化・質問力が問われることが予想されます。業務設計がしっかりできているマネージャーは問題ないでしょう。
メンバーには論理的に主張する力が必要となるでしょう。スキルアップに関しては今も昔も学習意欲がない人は難しく、そのような方にスキルアップは困難です。

2.新しく人事を始めた人は、コロナの情報をどのように整理し行動に反映すべきか
何が正しいかわからない状況です。一次情報である現場の声を直接聞いて自分で考えることが大事でしょう。疫病に関する歴史から学ぶことも重要です。

3.新人研修に関して
日報に関してメンターや上司がチェックすることは欠かせません。リモート研修ではブレイクアウトルーム(Zoom)にてディスカッションを盛り上げる工夫が人事は必要です。

オンライン環境は物理的な場所が不要なので、研修人数が増えても影響がほぼありません。そしてオンライン化により既存社員の研修見学参加が容易になりました。

評価

リモートワーク環境での評価はビフォーコロナ環境とは変わるものでしょう。パフォーマンスとバリューを評価基準に設けていれば、評価の本質は変える必要はありません。
ただし目で見える成果物以外での評価が難しいので、評価基準をより明確にする必要はあるでしょう。
「why」「what」「how」の理由とグレードによる期待値を明確にしましょう。言語化することも重要です。企業がガイドラインを出せば従業員も安心します。1年後の成果(生産性)に結びつける新しい評価制度が必要です。

1.リモートにおける評価方法や目標設定
プロセスが見えにくい部署は社員の努力が見えにくい課題は残ります。この点はまだ具体的な解決策が明確ではありません。

2.評価者のアップデート
評価も結局「生産性」を軸とすべきでしょう。成果の見える化や被評価者の納得の為に合理的な評価ツールの導入も必要です。被評価者の納得度をどう担保するか。評価の為の運用ツールを活用し、コミュニケーション総量を上げることも必要です。

3.今後の人事担当が持つべきスキル
働くための環境づくりに工数を割くことが人事の仕事の大半になるでしょう。評価方法を見直すことも大事で、構造分解をして見直していくべきでしょう。企業の事業戦略が変わっているはずなので、人事はそれに合わせてポリシーを作り直す必要があります。それに対応できるスキルが必要です。

4.リモートワーク導入後の評価と運用
マネージャーがメンバーの働き方がわからないならば、1日のタスクや目標を事前にメンバーにたててもらい、業務の見える化をすることが大事です。できる限り性善説で接するべきでしょう。社員にウエブカメラを設置させた企業は、社員から大いにひかれたという話も伺いました。

5.リモートワークでの業績評価や賞与設計の変更
休業期間の取り扱いや想定業務が変わるケースに対しての評価制度変更は、社員の納得感が前提となります。社員に対するシビアな評価をどうするかよりも、企業はこの危機をどう乗り越えるかを社員に対するメッセージとして、心理的安全の担保をすることが重要でしょう。

6.退職やネガティブな査定の面談のオンライン実施時に注意すること
部下のケアが常日頃できる人をマネージャーにしているとハレーションも起きにくいでしょう。
成果が第一のエース社員には給与を上げることで報い、メンバーに心理的安全を供与することができないエースがマネージャーに昇進する障害を回避しましょう。メンバーに寄り添える人をマネージャーにしてヒエラルキーを築くと、組織の効率が上がります。
成果が出たら給与で報いるタイプの人と、徳があり出世するタイプの人という2つの方向付けが重要です。社員や顧客のことを思い、企業のバリューを体現できている人を出世させないととんでもないことになります。それは企業の不祥事を招くということにもつながります。

オフィスは必要か

リモートワークが前提となり、企業によっては本社が入居するテナントを解約するケースも耳にするようになりました。オフィス解約肯定と否定の両方の意見があります。この問題については企業のスタイルで判断していくのでしょう。これまでのオフィス機能がこれからの生産性向上につながるかも考えましょう。

1.オフィス機能の必要性
オフィスの良さはアイデアを発展させ、新しい人と人との出会いの機会の場です。ブレストする際にはメンバーが同じ場に集まって実施するケースも多いでしょう。
経営者による経営計画策定などの場合は宿を借りて泊まり込みで実施していることもあるでしょう。今後はそのような場をオフィスで実施していくのではないでしょうか。オフィスはコラボレーションの場、イノベーションを生む場としての環境になるでしょう。

2.ウィズコロナでのレイアウト
オフィスでの働き方のガイドラインを作ることが必要でしょう。オフィスをリオープンするにしても新しい使い方を定義する必要があるでしょう。フリーアドレス制に変え且つ従業員の出社日をローテーションにした企業は、座席稼働率が低いので人員増加によるオフィスの拡張を抑えることができますし、従業員同士の間隔も確保できます。
2020年6月時点では絶対となる規定はありませんが「15分以上1m以内」「2m」などコロナウィルスの感染防止策について複数指標が示されています。 少なくともメンバー同士がすし詰めになるビフォーコロナを引きずったオフィスで働かされることは避けたいものです。そのような環境では安心して働けません。

手当

リモートワークに対する手当は何を目的とするのか考えてみましょう。
結論は社員の内発的動機を高めることを目的とすることにあります。なぜ内発的動機が高まるのか。それは手当が支給されることで、社員自身の財産が逸失することなく働けるという安心感が社員に生じるからです。逆にこの手当が適切に支給されないと、社員の意欲を下げることにつながります。
誤解があるといけませんので念のため補足いたしますと、リモートワーク手当は報酬ではありませんし、外発的動機を刺激するものでもありません。
間違っても交通費支給を止めるだけの費用圧縮しかせず、リモートワーク手当を支給しないで利益を作り出すという邪なことを実行することは避けねばなりませんね。

それでは社員に安心感を与えるために、企業はどのような手当を考えねばならないでしょうか。自社のオフィス機能を社員の自宅が代替しているという状況に対して、手当を支払うという考えが妥当でしょう。

オフィス機能の代表的な項目は以下の通りです。
1.オフィスフロア⇨社員の自宅をオフィスの代替とするが、業務使用有無による社員の追加コストは掛からないので手当には含まない。ただし自宅ではどうしても業務を行えない社員は応相談の上、一定の手当を支給すべきでしょう。

2.水道光熱費⇨自宅で業務を行うことで、社員は通常発生しない費用の負担があるので手当に含めます。
内訳例
1)電気水道ガス代⇨夏場冬場は光熱費がかかるため、月額5,000円〜10,000円程度必要でしょう。

2)通信費(電話、ネット回線)⇨Wi-Fiもしくは光回線の費用。ポケットWi-Fiの場合通信容量オーバーにより回線速度に影響が生じますので、社員の私物を業務に使わせるのは妥当ではありません。月額3,000円〜5,000円程度、もしくは実機の手配が必要でしょう。最もよい手当の形は光回線を社員の自宅に設置させることでしょう。オンライン商談や社員間コミュニケーション(Zoom飲みなど)にはポケットWi-Fiでは心もとありません。光回線の場合おおよそ月額5,000円程度でしょう(導入年割引など特典は考慮しない)。

3.オフィス什器⇨社員の私物or新規購入により代替
 内訳
1)机⇨自宅に作業用デスクをお持ちでない方も多いので、簡易的であっても代替手段として支給する必要があるでしょう。企業ごとに仕様や上限を決めて支給することが必要です。

2)椅子⇨机と同様です。

3)ケーブル(PC関連)⇨必要に応じて支給することが必要です。

その他社員の安心感を担保するために、通勤する際は危険手当を支給するという先進的な企業もあります。その背景は経営者の方がコロナ禍の中、社員に出勤させるのが申し訳ないという感じたことにあるとのことです。これを聞いた時、このように言語化とそれを実行できる経営者は素晴らしい!と感じました。またZoom飲みコミュニケーションを実施し、企業が社員に飲み代を負担しているケースも伺いました。様々なコミュニケーションルームを回ることで多くの社員と触れ合うことをその企業は推奨しているようです。

おわりに

企業は限られた資源を有効活用していかねばなりません。これまで述べて参りました項目をチェックしより多く改善の実行ができるとよいのですが、資源は限られています。あるべき姿と現在抱える課題のギャップが大きい点に資源を投入することが最も生産性を上げることが出来るでしょう。
ただ課題を発見する際には自社に透明性は担保されているか、従業員に心理的安全は担保されているか、それらをまず厳しくチェックされることをおすすめいたします。
生産性という言葉は数値に置き換えられます。人事のお仕事上、別部署の生産性のウォッチやジャッジをすることは心理的なハードルが高いかもしれません。「私の管轄に口をださないでもらいたい」と現場の反発を受ける可能性もあります。
しかし「ヒト」を扱うプロフェッショナルは人事部の皆様です。どうか現場の一部メンバーの反発に怯まず「ヒト」を起点にした自社の生産性向上にチャレンジしていただけることを祈念いたします。これまでお読みいただき誠にありがとうございました。

参考記事
リモートワークと労働生産性を考える①
リモートワークと労働生産性を考える②

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執筆者

上川 宙士

CANTERA6期生。
オートリース⇨人材紹介⇨イベント運営⇨人事周りへの商材を経験。
ある方に「人事の仕組みを知らずに働くのは、ルールを知らずにスポーツをするに等しい」という話を聞きCANTERAに参加。
CANTERANOTEの裏方として少しお手伝い。

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前回の記事ではリファラル採用のメリットについて述べてまいりました。
今回は対となるデメリットやリスクについて述べてまいります。
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リファラル採用の活用による生産性の向上①

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さて本テーマであるリファラル採用を適切に実行できる企業は、需給バランスが急激に変動した現在においても良いご縁を得る可能性が高いと考えられます。
なぜならリファラル採用を適切に実行できる企業には「嘘」がなく、「企業の課題」もオープンにされているので、認識齟齬による労働者と企業のご縁が悪くなる可能性がとても低いからです。
企業側にとっても経営が苦しい中、採用に関して外部機関に頼ることで発生するコストは極力抑えたいのではないでしょうか。せっかくコストをかけて採用した社員がすぐに離脱してしまうという事故も防ぎたいのではないでしょうか。
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リモートワークと労働生産性を考える③

前回の記事(リモートワークと労働生産性を考える②)では動機付け、ストレスへの対処、マネジメントについて生産性向上との関連を述べて参りました。本稿ではリモートワーク環境のもとで求められるスキル、あるべき評価、オフィスの要否、社員への手当について生産性向上との関連を述べて参ります。

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前回の記事(リモートワークと労働生産性を考える①)では企業文化と企業風土、企業の透明性、コミュニケーションについて生産性向上との関連を述べて参りました。本稿ではリモートワーク環境のもとでの動機付け、ストレスへの対処、マネジメントについて生産性向上との関連を述べて参ります。

リモートワークと労働生産性を考える①

筆者はこの数ヶ月、ウェビナーと呼ばれるオンラインセミナーに多数参加させていただきました。時節柄リモートワークに関する内容が多くの場で議論や対話が行われています。その中で頻繁に上がるワード「生産性」。リモート前提の働き方が労働生産性(以下生産性)向上に寄与するのか考えていきたいと思います。