給与制度は従業員へのメッセージ

最終更新日:2020/07/11

Writing by:長谷川貴久

人事に関する課題は尽きることはありませんが、その中でも「給与」をテーマにした議論はさほど多くはありません。

はじめに

そもそも、日本ではお金に関する議論を好まない空気感があります。また、生々しいデータなので公開し辛い、他社や他業界と比較されると採用競争力が下がる不安がある等々、情報の性質としてオープンにし辛いモノであることが原因なのかもしれません。
また、ビジネスモデルや会社フェーズ、在籍する人員構成が異なる中では、コレといった唯一解をひねり出すのは非常に困難なことであることも事情の一つでしょう。
それゆえ、人事担当者が給与設計を行う際に実務的に参考となる情報は少ないため、何か示唆のある内容をお伝えすることが出来ればと考えましたが、実施に給与設計を行う際にモヤモヤと悩んできたのも事実。
ですので、今回は「給与設計を行うにあたり何をモヤモヤと考えてきたか」についてお伝えさせていただこうと思います。

どれだけ払うか、何を払うか

社員の給与をどのように決めるのか、シンプルですがとても難しい問題です。
まず考えなければならないのは「会社としてその金額を支払うことができるか」という点。どれだけ優秀な人材を確保しても、事業として成り立たなければ決して良い給与制度とは呼べません。現在の会社のビジネスモデルを理解し、そこから産み出される付加価値のうちどれくらいを社員に還元するか、いわゆる労働分配率の観点は必要不可欠となります。会社としての適正な還元率はどの程度か。これは、会社によって異なります。ビジネスモデルや利益構造、株主との関係性(株主還元率)、事業や市場の将来性、、、などなど、置かれた環境により大きく左右されるでしょう。

人事として自社の環境を理解し、経営層から「ヒトに対する投資分」の原資を握ることは優先度の高い項目になります。また、その際には経営層と給与ポリシーについても意見合わせを行うことは大切です。
例えば、個人の成績が業績に直結しやすいプロダクトであれば業績連動比率を高める、継続勤務を志向しているのであればストックオプションや退職金の制度を導入するなど、自社にとってどのような形で支払うのがベストか、戦略との親和性に注意しながら制度を考えると良いと思います。

給与設計時の必要な2つの視点

給与設計を行うにあたり必用な視点として、「採用競争力の観点」と「従業員のモチベーション」の大きく2つの論点があります。

「採用競争力の観点」は(原資の問題を除けば)非常にシンプルで、優秀な人材を確保し続ける観点から他社と比較してより魅力的な給与設計を行うべきということです。
某アパレルブランドさんが自社の給与制度の広告を出されたことは記憶にも新しいですが、あのように他社と比較して魅力的な給与設計はそれだけで優秀な人材を確保するための採用広報としての役割も果たすことになります。
 
もう一つが「従業員のモチベーション」の観点です。特に入社後にどのように給与・処遇が上がっていくかは従業員のモチベーションを左右する要因になるということは想像に難くないでしょう。
ただ、給与制度がどのようにモチベーションに影響を与えるかについては、じっくりと考えるべきです。
 
ここで自身の経験を振り返ってみてください。みなさんもこれまでの人生で給与があがった経験が少なからずあると思いますが、その時、どのような感情がうまれたでしょうか。給与が増えて嬉しいと感じたことがある方でも、その数ヵ月後にその嬉しさは継続していたでしょうか?また、昇給額が自身の期待した金額よりも少ない時は(給与が増えているにもかかわらず)不満を感じたこともあるでしょう。ただ給与が増えるというだけでは継続的にモチベーションが向上しない、ということが起こりうるのです。
 
一方、先ほどの給与制度を公開した企業のように「このグレードに昇進したら年収がこれだけ増える」ということがはっきりしていれば、目指すべき姿がはっきりするのでモチベーション維持に効果があるのかもしれません。
給与に対する期待値調整を行うことこと、従業員にとって満足度の高い給与設計ということではないかと思っています。
ただ、年齢やプライベートな環境によっても期待値が異なるため、個社の制度として全てを満たす制度を作ることはかなり困難です。そのため、外部労働市場(転職市場)の給与水準を導入するという特徴的な設計をされている会社も一つの参考になるのではないでしょうか。

制度設計は会社からのメッセージ

このように、給与制度を受けて側のことを考えるとなかなか落としどころが難しく、そして、一度作った制度も会社と従業員の成長にあわせてどんどん変えていく必要があります。そのため最も大切になるのが、「給与設計のポリシー」になります。給与ポリシーとは、その会社が従業員に対してどのように活躍して欲しいか、その活躍に対してどのように処遇をしようとしているのかを伝えるメッセージの役割を持ってます。
キングダムで秦国の法律家である李斯が「法とは願い。国家がその国民に望む人間の在り方の理想を形にしたものだ。どうあって欲しいのか、どう生きて欲しいのかどこに向かって欲しいのか、それをしっかりと思い描け。」と言うシーンがありますが、会社にとって給与に限らず全ての制度は「従業員にあってほしい姿を形にした、会社からのメッセージ」です。このメッセージを伝えるため、制度設計を行う時と同じ、時にはそれ以上に制度の浸透施策と運用に力を注いでいただきたいですし、この浸透・運用の実行計画も制度設計の一部として検討していただきたいと思います。この思いをしっかりと伝えることこそ制度に魂を入れる作業であり、その制度を生きたものにする大切なプロセスなのです。
具体的には「誰(どのような対象者)に」「何を(金銭か株式か福利厚生かなど)」「どのように(月給賞与か年俸制か決算賞与かなど)」処遇するのかを考える事。そして、どのような信念を持ってその制度を作ったのかを具体的制度内容とともに周知し理解してもらうことが大切なのだと思います。
 
給与制度は設計内容もさることながら、それ以上に時間をかけて導入・運用することこそ良き給与制度になる秘訣なのではないでしょうか。

なお、当コラムの内容は個人の意見です。

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執筆者

長谷川貴久

CANTERA1期卒業生。
CANTERA卒業生の有志勉強会である「CANTERA放課後倶楽部」の企画・運営に携わる。
新卒で製造業に入社。営業、人事等を歴任。人事歴は10年超で、人事・給与設計から採用、労務等の人事業務全域を幅広く経験しています。
入社後のビジネススクールに通うなど個人のキャリア育成に関心があり。また、育児休暇を取得するなど、2児の父として家庭とキャリアの両立の”実践”にもチャレンジしています。

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