社員の労働生産性向上に寄与する福利厚生制度の活用

最終更新日:2020/07/14

Writing by:上川 宙士

働き方改革のスローガンやコロナショックにより注目が集まっています「労働生産性」。本記事は労働生産性向上に福利厚生制度が寄与するかどうかという点について述べてまいります。

はじめに

結論といたしまして「福利厚生制度は内容により労働生産性向上に寄与する」と考えます。その理由を以下に述べてまいります。
※本記事での福利厚生制度は「法定外福利厚生制度」を指しております。

なぜ福利厚生制度を導入するのでしょうか

分類しますとおおよそ3つの導入理由になるのではないでしょうか。

  1. 社員や家族の生活の向上や社員の労働生産性向上に寄与するため
  2. 離職率改善のため
  3. 制度として明文化することで新卒応募者に自社を認知してもらうため

1.に関しましては社員が健康で常時業務に邁進し、労働生産性向上の可能性を追求する上で一定の効果があるでしょう。もし社員自身や家族が不健康であれば、社員は安心して業務に臨めない可能性が高まってしまいます。

2.に関しましては効果の程は小さいと考えますが、ブランドイメージで競合他社に劣ることを避ける目的として一定の効果があるといえるでしょう。ただし後述となりますが、社員のニーズに合致していない制度を導入した場合は離職率改善に対する導入効果は少ないでしょう。

3.に関しまして、明文化水準の内容で福利厚生制度を導入している場合、生産的な目的に貢献するのは困難でしょう。

参考までに、経済産業省が実施しました「健康経営の労働市場におけるインパクト調査①」では、就活生の4割が福利厚生の充実を就業先に望んでいると述べられています。
このニーズを満たすために「まずは明文化しておいた」水準では実際のところ自社の被認知機能もまだ弱いでしょう。こちらも詳しくは後述となりますが、就活生が望む制度は「住宅手当」「社宅」「資格取得」「育児補助」など企業側が一定の支出を要する制度です。上記制度を企業が用意できていない場合は一定数の応募者の離脱や評判低下を念頭に入れねばならないかもしれません。

一般的な福利厚生制度とはどのようなものでしょうか

「住宅手当」「社宅」「資格取得」「育児補助」「交通費」「社員食堂」「企業年金」「健診制度」「特別休暇」「財形貯蓄」「家族手当」「カフェテリアプラン」「外部アウトソーシー活用」などが代表例でしょう。

「交通費」「企業年金」「健診制度」「特別休暇(慶弔など)」は誰しもなじみのある標準的な制度と言えるのではないでしょうか。
「社宅」や「社員食堂」もよく知られた内容です。ただし物理的な制約がありますので導入にはやや高いハードルがあります。
「住宅手当」は給与水準が業界平均以上の企業が社員に支給しているのであれば、手当の意味はあるでしょう。昨今では本社から2駅以内等であれば数万円支給するという企業も多くみられます。交通費が削減できますので、企業も社員も不満が発生しにくい施策といえるかもしれませんね。

※基本給を大幅に削減し、削減分を「住宅手当」として支給することで、毎月の給与を一般公開している水準にしている企業も一部にあるようです。
長時間残業が改善されない企業がこの仕組みを導入すると、残業代計算における時給を下げ、コスト削減はできるでしょう。ただし一定の社員数の企業であれば「Open Work」などの情報源からこうした労働者にとって負の情報は収集されます。こうした制度を実行する企業はブランドイメージ低下や、労働生産性の高い社員の確保は今後より困難になるでしょう。

福利厚生制度は離職率改善に寄与しているのでしょうか

福利厚生制度の導入目的を「社員の離職率改善」と表明している企業は多いと思われます。
その離職率に福利厚生制度による恩恵との相関関係があるか、を本項の問いといたしますと、残念ながら「福利厚生制度は離職率改善に寄与しているとは言い難い」でしょう。

福利厚生制度を離職率改善への施策(アウトソーシーを頼る場合も含め)として導入している場合、導入目的から見直しが必要でしょう。その理由につきまして、資料をもとに述べてまいります。

国内の離職情報が掲載されている厚生労働省発表の平成30年雇用動向調査結果の概況によりますと、離職理由の上位を占める理由は下記となります(定年などの期間満了を除く)。

【男性】
・給料等収入が少ない(10.2%)
・労働時間、休日等の労働条件が悪かった(10.0%)
・職場の人間関係が好ましくなかった(7.7%)
・会社の将来が不安だった(7.6%)
・会社都合(5.9%)
・能力、個性、資格を生かせなかった(4.8%)
・仕事の内容に興味を持てなかった(4.6%)
・その他

【女性】
・労働時間、休日等の労働条件が悪かった(13.4%)
・職場の人間関係が好ましくなかった(11.8%)
・給料等収入が少ない(8.8%)
・仕事の内容に興味を持てなかった(5.5%)
・会社都合(4.7%)
・能力、個性、資格を生かせなかった(4.3%)
・会社の将来が不安だった(4.0%)
・その他

男女共通して大きな課題は「労働条件」「給与」「人間関係」となり、福利厚生制度活用による離職率の改善は「各種手当」の額を大幅に上げる以外には極めて困難であることがわかります。

では各種手当は社員からどのように認識されているか、確認して参りたいと思います。

パーソルキャリア株式会社調査 福利厚生は従業員定着につながるのか?20代・30代が本当に求める制度を調査 によりますと、「あると嬉しい福利厚生」の調査で以下の4点が代表的な施策となっています。

「住宅手当」「通勤手当」「特別休暇」「社員食堂」
※調査対象者の50%以上があると嬉しいと答えた項目

給料以外に所得向上となる仕組みを彼らは望んでいるということがわかります。

それとは別に「従業員満足度があまり高くない福利厚生とは?」の項目によりますと、

・「社員旅行・レクリエーション:不満足40%」
・「住宅手当:不満足38.8%(厚生労働省の平成27年調査では平均17,000円)」
・「家族手当:不満足37.9%」が上位になっております。

「社員旅行・レクリエーション」の結果は施策の導入以前に職場の心理的安全や人間関係に課題があることの示唆があります。まずは根本的課題の解決を他の施策で実施せねばならないということでしょう。
住宅手当など所得に関わる福利厚生制度はあると嬉しいと感じる反面、その額が本人の希望額に満たないなど条件面が不満に変わってしまうという結果がでています。
入社する前に望んでいた手当ですが、支給されていくにつれて本人にとっては支給されていることが当たり前となり、結果今よりも高望みをするようなマインドが発生してしまい、極論社員に満足をしてもらうならば住宅費(賃貸を想定)の8割〜9割を会社は支給せねばならないことになります。結果膨大なコストを会社は負担せねばなりません。

社員の期待値を正確に計らないと、よかれと思って実行した施策が不満足要因に変わってしまいます。新たに住宅手当などの制度を導入する場合は慎重に検討する必要があるでしょう。

労働生産性向上に福利厚生制度は有効でしょうか

この問いに関しましては、施策内容如何で有効となるでしょう。労働生産性向上の意味としては2つあると考えます。
1つ目は既存業務の「処理効率を上げる」こと。2つ目は社員の高いモチベーションにより、全く新しいパターンの既存資源の組み合わせや、全くのゼロからの「新しい価値の創出」です。

どのような施策が効果的か、具体例をあげていきたいと存じます。

労働生産性向上に寄与する福利厚生制度の具体例

企業価値が高く、社員を大切にしていると言われる企業として米国のGoogleがあげられます(定性的な解釈なので是非はあると思いますが)。同社は絶えず新たな価値を生み出し、企業価値を高めてきました。福利厚生制度はその一端に過ぎないでしょうが、同社が行っている施策とその背景を理解すると、自社にも導入できる有効な制度のヒントが得られる可能性があります。
(以下「ワーク・ル―ルズ!君の生き方とリーダーシップを変える ラズロ・ボック 東洋経済新報社刊」より一部引用)

Googleが福利厚生制度など社員を対象とするプログラムには3つの目標があります。「効率を高める」「コミュニティの形成」「イノベーションを促す」の3つです。

同社は社内での食事を無料で社員や来客に提供しています。この目的は新たなアイデアが生まれるコミュニティを形成するため、と文中にあります。そして食事内容については、社員の健康第一を考えカロリーを抑えたものに、また過剰摂取をしないよう実験を通じて最適な器で食事を提供するなど工夫を凝らしています。

社員の健康を徹底して考えた食事の提供により、「健康維持による労働効率」「自然とコミュニティが形成」「コミュニティからのイノベーション」という「効率化」「イノベーション」の実現に福利厚生制度が一定の貢献をしているといえるでしょう。

ただしこれらGoogleの福利厚生制度は、社員の離職率改善や入社動機には社員アンケートからの情報ではプラスもマイナスにも影響はないそうです。福利厚生制度は3つの目標を達成する為に適切に提供されているだけのものと彼らには認識されているとのことです。

Googleと同じ水準の施策をどの企業でもできるかと問われれば、それは難しいと言わざるを得ません。しかし方法次第でGoogleが得た効果に近いものを得ることはできるのではないでしょうか。

社食に関しましては物理的な制約があり簡単に設置することはできません。しかし国内には栄養バランスに考慮した食の福利厚生サービスもあります。

代表的なサプライヤーとしては、オフィスおかんnoshなどがあります。両社とも個宅配送をしているので、リモートワークを実施している企業でも社員全員平等に提供できます。

これらのサービスとオンラインMTGツール(Zoomなど)を活用し、リモートワーク下でもオンラインランチを実施して交流を深めることもできます(同じブランドの食事を取ることでのコミュニティの結束強化)。お菓子のサブスクリプションサービスもありますので、コミュニケーションの活発化に貢献できるツールはたくさんあります。

そしてリモートワーク下では円滑なコミュニケーションを行う為に高速回線が必要です。一人暮らしの社員などは自宅に回線を敷いていないケースがあるので、福利厚生制度の一環として回線設置補助や通信費を手当とすることも必要でしょう。コロナ禍という特殊な状況に対応する例を想定して述べましたが、上記施策の組み合わせはGoogleが目指した効果に近い成果を得ることはできるのではないでしょうか。

他にもGoogleが福利厚生制度として導入しているもので、どの企業でも実施できる施策はあります。一例として以下の通りです。

(Google実践)⇨(他で代用可能なサービス)の事例
・託児所⇨シッターサービス補助などで代用可能
・マッサージ⇨例:てもみんチケットなどで代用可能
・昼寝カプセル⇨昼寝マットなどで代用可能

上記までは日常の仕事に直接紐づけて労働生産性を上げるための施策です。

加えて以下は間接的に労働生産性を上げるための施策例です。施策の目的は主に平日の過処分時間を増やし、業務に集中できる状態をつくり出すことです。「衣食住」に焦点を当てますと、効果的な施策になると考えられます。

衣:例)洗濯機の購入支援(購入費の一部負担)
夫婦いずれかに配偶者控除が適用されておらず、子供がいる場合に時短(効率改善)が可能な高性能な洗濯機を購入した場合に、一部会社が購入金額を支援する。毎日行う家事の効率化は夫婦共に助かるでしょう(ただし活用条件や離職した際の返金ルールなどは必要)。

食:例)宅食費用の補助
上述の機能性宅食を導入することで、色々な社員の時短(効率改善)と健康への貢献が見込めます。独身の社員であれば、外食が増えることによる食生活悪化の防止が見込めますし、子供がいる社員であれば健康を意識した食事を用意する手間が一部省けます。平日は機能性の食事で、休日は夫婦で腕によりをかけた料理を作るのも良いかもしれませんね。

住:例)住宅手当
上述の住宅手当は一定の労働生産性向上には寄与すると考えられます。一定の安心感(きちんと手当てが出ている安定した企業で働いているという実感)が社員の動機付けにつながるとも考えられます。通信費用の補助もこの分類になるでしょう。

その他、昨今では従業員同士でのコミュニケーション促進や社内ポイントの融通をする「ピアボーナス」も一部の企業で導入されています。心理的安全がある職場であると社員同士のコミュニケーションを活発化させる効果が期待できます。また現在ではSlackなど他のアプリとの連携機能を備えているソフトウェアも多いので、利便性が良いことが導入の必須条件とも言えるでしょう。利便性が悪い場合社員の利用率も下がりますので、そういったツールの導入効果はあまり期待できません。
また心理的安全が無い職場では一部の仲間内でポイントの循環が行われるだけとなるので、導入には職場の心理的安全があるか事前に把握するということも必要でしょう。

日常的な利用ではありませんが、様々な要因により発生するメンタル不調へのケアを、社員が安心して受けられる外部機関によるセーフティネットを設けることも、心理的安全やモチベーションを担保するために大事でしょう。

ここまではコストをかけた施策について述べましたが、労働生産性を高めるには、コストをかけずとも人事の皆様が独自で設計できる福利厚生制度もあります

世の中の便利ツール(アプリ)を社員へ紹介することで、社員や家族の生活の質向上の為に多大な貢献が可能です。

スマートニュースのクーポンやお得・割引情報機能、グノシー(オトクル)のクーポン、ALKOOやWalk Coinなどのウォーキングアプリの活用など、便利なアプリは多数提供されています。スマートニュースやオトクルは知名度が高く、アクティブユーザー数も多い為、便益の高いコンテンツが豊富です。
これらアプリを複数活用することで有料の福利厚生アウトソーシーが提供するサービス以上の利用率や効果が無料で期待できます。
スマートフォンに上記並びに類するアプリを纏めるだけでOKの旨を社内報やイントラで定期的に社員へアナウンスを、できれば定期的に実施していきましょう。

Googleの場合、社員自ら福利厚生のプログラムを社屋近隣の業者と提携して実行しています。アウトソーシーに頼らないという点では上記アプリ導入と同様といえるでしょう。

新たな制度(企業がコストを負担)を導入する際に、1点注意が必要です。それは導入効果が期待値に至らない場合は、その制度は廃止することを導入前に社員へ通知しておくことです。一部の社員のみ便益が生じ、既得権益化してしまうと、いざ廃止する時に一部の社員から大きな抵抗をされてしまいます。

コストの大小はありますが、社員が日常で感じている煩わしさやストレスを解消し、効率を高める施策や社員の能力を引き出すコミュニティを形成し、イノベーションを生み出す。労働生産性を上げる福利厚生制度の活用はどの企業でも実行できるのではないでしょうか。

まとめとなります。社員一人一人の労働生産性向上に寄与する福利厚生制度とは、社員の「労働効率を高め」「能力開発を促すコミュニティへの帰属感を高め」「イノベーションを促す」ことを目標とし、社員が日常的に活用し、仕事への動機付けにつながっているもの。
最後に一つだけ要件を加えさせていただき恐縮ですが、「組織に心理的安全が担保された条件下で」上記条件を満たす制度を導入することで、労働生産性向上に寄与し自社の発展を成すことができるでしょう。

これまでお読みいただき、誠にありがとうございました。

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執筆者

上川 宙士

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オートリース⇨人材紹介⇨イベント運営⇨人事周りへの商材を経験。
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