やらされ感のある仕事をやりがいある仕事へ。「ジョブ・クラフティング」とは

Writing by:能登隆太

こんにちは。CANTERA ACADEMY3期卒業、能登隆太です。皆さんは、レンガ積みの話をご存知でしょうか? 有名なイソップ寓話の「3人のレンガ職人」です。

イソップ寓話の「3人のレンガ職人」

ある旅人が道を歩いていると、レンガを積んでいる職人に出会います。そして旅人は職人に「ここで何をしているのですか?」と尋ねました。

すると1人目は「見ればわかるだろう。レンガを積んでいるのさ。朝から晩まで。こんなきつくてつまらない仕事、辞めてしまいたい」と答えました。

旅人が少し歩くと別の職人がレンガを積んでいました。旅人は同じ質問をしました。すると2人目の職人は「ここで大きな壁を作っているんだ。これが俺の仕事なんだ」と答えました。旅人が「大変ですね」と声をかけると職人はこう答えた。「なんてことはない。この仕事のおかげで家族を養える。ここでは家族を養える仕事を見つけるのは大変なんだ。仕事があるだけありがたいよ」

旅人はまた歩き始め、しばらくすると3人目の職人と出会いました。旅人はこれまでと同じく問い掛けます。「ここでいったい何をしているのですか?」と。3人目の職人はこう答えました。「俺はレンガを積んで教会を造っているんだ!」職人は満面の笑みを浮かべながら両手を広げ自信満々に続けて言いました。「大変だって? とんでもない! ここで多くの人が祈りを捧げることになる。俺は人の未来を造っているんだよ!」

さて、あなたはこの話を聞いてどう思うでしょうか? 3人目の職人のように仕事を捉える人なんているわけがない、そう思うでしょうか。

現実に、どんな仕事であっても誇りを持ち、情熱的に自らの仕事と向き合う人が確かに存在します。例えば病院で清掃業務を担うとある人物は、清掃業務を雑務と捉えるのではなく「患者の環境を整え、健康になる手助けをしている」と捉えているといいます。

きっとこの話を経営者や人事が聞いたなら間違いなくこう思うでしょう。
「あ〜そういった人材こそ自社に来て欲しいものだ・・・」

ですが、面白いことにこのような仕事の捉え方をする人々は先天的に何かが優れているわけでも、他の人より突出した能力があるわけでもありません。私たちと何ら変わらない、同じ「普通」の人なのです。

裏を返せば、誰しもが自らの捉え方を変えることができる力は持っています。そしてこれまで考えられなかったようなエネルギーを発揮し、仕事を通じて幸福感すら感じるようになる可能性があるのです。

あなたにとって仕事はジョブ? キャリア? コーリング?

イェール大学経営大学院のエイミー・レズネスキー教授が1997年に発表した論文「Jobs, Careers, and Callings: People’s Relations to Their Work」によれば、仕事に対する価値観は大きく3つのタイプに分けられると言います。

1.ジョブ:お金と生活のための労働
主な興味は仕事以外のことであり、仕事以外の活動から満足感を得ようとする傾向がある。

2.キャリア:高い地位と責任のため
金銭的利益のみならず、昇進やそれに伴い権力を保持することで自尊心が満たされる傾向がある。

3.コーリング:充実と社会的意義、使命感
自分の仕事と人生が切り離せないものと感じており、仕事そのものに意義を感じて充実感を得ることができる。いわば「天職」と感じられている状態。
※コーリングの語源は、キリスト教において神から与えられた使命、召命を意味する言葉。

個々人がコーリングの状態であることで組織にどのような影響を与えるでしょうか。研究結果によればコーリングに近い状態にある社員は組織に対する忠誠心が高まり、欠勤率が減り、離職率が下がり、パフォーマンスが上がるといった効果が期待できるそうです(驚くべき結果・・・)。

コーリングは警察官や医者、弁護士等、社会的使命を担う職業につく人が感じやすいと言われていましたが、そのような職種に限った話ではないでしょう。

私たち一人ひとりが、仕事をただの作業や労働と考えるのではなく、仕事そのものが人生の目的であると考えることができるのです。ではコーリング状態にある人とそうでない人との違いはどこにあるのでしょうか。

その答えは「捉え方」にあると考えます。「捉え方」はコントロールでき、そしてそれによって私たちの精神的ストレスや幸福度までもが変わることが証明されています。

しかし、私たちは仕事を含めた物事の「捉え方」をどうコントロールし得るのか。世界との付き合い方について学校や会社で学ぶことが一切ないと言っても過言ではありません。

そこで注目されたのが「ジョブ・クラフティング」です。

やらされ感のあった仕事を、やりがいある仕事へ変える。

ジョブ・クラフティングとは、「従業員が自身の仕事をより情熱的に、やりがいを感じて取り組めるように設計しなおすような行動」を指します。仕事の捉え方を再定義することで、仕事そのものや仕事と自分との関係性を物理的にも感覚的にも変えていくというものです。

前述の例に取れば、1人目のレンガ職人のように仕事をただの「ジョブ」と捉えていた人が、仕事への取り組み方などを見つめ直すことで3人目の職人のように仕事を天職と捉えられるようになる可能性もあります。

あなたの会社にこんな人はいないでしょうか(あなた自身かもしれない!?)。
・日本の大企業は全くイケてない。こんな下積み、やってられっかよ!
・いざベンチャー来たけど何も方針決まってないな・・・。これやる意味あるのか?
・仕事を通じて人として成長するなんて今時古い! 仕事に情熱も何もないよ。

今、あなたの頭には誰が思い浮かんだでしょうか?
一人でも思い浮かんだ方は以下にご紹介しますジョブ・クラフティングをぜひ実践してみてください。かくいう私は実際に試した結果、数ヶ月で人間関係や仕事に対する向き合い方、モチベーション、エンゲージメント、会社に対する見方が大きく変わったと感じています。

一般的に企業において社員の満足度を高めるためにはマネージャーが主導して取り組みを推進することが多いですが、ジョブ・クラフティングでは例え資金がなくても、ポストが足りなくても、社員一人一人が自ら仕事を再構築し、さらに魅力的かつ充実感のある職場を作り出すことを可能にします。

では、具体的なジョブ・クラフティングのやり方を紹介します。

エイミー・レズネスキー教授が2001年に提唱した手法に習えば、仕事上の主要な側面となる3つの側面(担当業務・人間関係・仕事に対する認識)の現状を評価し、その上で、改善策を考える流れで進めます。

(出所:エイミー・レズネスキー、ジャスティン M.バーグ、ジェーン E.ダットン(2011),「Turn the Job You Have into the Job You Want」,Diamond Harvard Business Review)

1.仕事を業務・関係・認識の観点から見つめ直す

・担当業務や範囲を調整したり、実施方法を変更する。

・人間関係の性質や範囲を変える。

・担当業務のいくつかの側面で目的を見直し、仕事全体の枠組みを再構築する。

以下の図を参照してください。ある社員がどの業務にどれだけの時間をかけているかを可視化したものです。チームの業績管理、問い合わせ対応、市場調査等、情熱を感じづらい業務に多くの時間を費やしています。まず、現状を整理して可視化することで、自分にとって本当に有意義な業務に費やしている時間が少ないことがすぐ理解できます。

2.時間とエネルギー、関心の配分を見直す

上記1.で可視化した内容を、業務に費やす時間とエネルギー、そして自分の関心も踏まえ新しく描き直します。

この例では「マーケティング戦略の企画」を自分の動機、強み、情熱の対象に見合った形にすべく、小さなブロックを中程度に拡大、そこに関心のあった「ソーシャルメディアの活用」を追加しました。また、ソーシャルメディアを自分の仕事に組み込むために「同僚へのソーシャルメディア活用法の伝授」と言う小さなブロックを追加。自分に合っていない仕事については対処方法を記しました。

グループ分けした仕事のうち、共通目標や役割として使えると判断されるものは枠で囲みます。この例では「ソーシャルメディアに関するノウハウの構築と活用」を一つの役割と見なしています。このやり方で自分の役割を組み立てて行けば、重要な強みや情熱を発揮できるはずです。

3.新しい仕事の構成を実現する上で直面する課題を考察する

・仮にソーシャルメディアを有効活用できるようにしたいと思っても、それによって他者の職域を侵害したり、不信感を周りから持たれることを懸念することもあるはずです。そこで、自身がまだ処理しきれていない案件を見直し、どうすれば自然な形でソーシャルメディア活用を取り入れることができるか検討しました。その結果が以下の図となります。一目で自分の動機や強み、情熱と業務を関連づけられているかがわかります。

例えば、有意義な関係を構築して人間的に成長することにモチベーションを感じること、強みは一対一のコミュニケーションと技術力の高さであること、他の人々への教育・新しいテクノロジーの利用と学習に情熱を注いでいることがわかります。

※この図ではブロックが大きいほど、多くの時間・エネルギー・関心を向けていることを示します。複数の職務を囲んでいる線は共通の目標を持つことを示しています。

以上がジョブ・クラフティングの流れです。

ただこの手法は万能ではありません。
ジョブ・クラフティングは社員が主体的に自らの仕事を分解して捉え直すことで「選択と集中」の実現を目指し、その実現に向けて誰との関係構築が必要かを認知することで、仕事に対する「捉え方」を変えていこうというコンセプトです。

しかし、組織の中で与えられた仕事を「興味がないから」という理由だけで捨てることはなかなか難しいものです。

このプロセスは上司とも話をしながら、その他関係者との対話も加えて実現することが望ましいと考えます。周囲からの強制ではなく、あくまで社員主導。一方でその実現に向けたサポートは互いの協働があって初めて成り立つと考えます。

仕事は誰かとの精神的な繋がりがあってこそ成り立つということだと考えます。レンガ積みを天職を捉えていた職人も「自分が造った教会を使って『誰か』が祈りを捧げ、救われる」ことを想像しながら仕事に打ち込んでいました。

特定の誰かでなくても構わない。でも誰かがいるからこそ、その仕事は価値を持つのでしょう。

ジョブ・クラフティングは個人のわがままを通すツールではありません。むしろ現状を打破すべく、自ら物事に対する捉え方を見つめ直し、周囲の協力を得やすくすることで、自分自身の仕事のあり方を決められるようにするための支援策です。

私たちはついつい目の前の忙しさに追われ、気付いたら自分の人生にも関わらず、自分自身の運転席に座っていないことがあります。無意識に他人の時間を生きてしまっているケースです。

類稀なるリーダーシップを発揮した南アフリカ共和国の元大統領/ネルソン・マンデラもこう言っています。

I am the master of my fate, I am the captain of my soul.

(私が我が運命の支配者であり、我が魂の指揮官である)

大切なのは自分があらゆる物事をどう捉えているかであり、それをどうすればコントロールできるようになるかではないでしょうか。
そのためにはまず、自らの現在地を正しく把握することが重要で、実は一番難しいことなのかもしれません。

ジョブ・クラフティングは自分なりの理想的なあり方を目指す一つのガイドラインになるかもしれません。
ジョブ・クラフティングを実践してみたいという方はぜひお気軽に私までご連絡をください。

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執筆者

能登隆太

CANTERA3期卒業生。
新卒で伊藤忠商事に入社。入社後は人事・総務部配属となり、新卒採用・海外人事(駐在員処遇、出向対応、現地生活調査等)に従事。2018/7にHR Tech、データ活用組織を立ち上げ、その後全社研修企画も兼務。2019/7より全社で新設された「第8カンパニー」の人事担当を務める。

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