エンゲージメントって本当に大事なんですか?

最終更新日:2020/08/19

Writing by:平山鋼之介

こんにちは。CANTERA ACADEMY4期生の平山です。今回はエンゲージメントについて最近思うことを書きたいと思います。
マネジメントやHRに関わる方で「エンゲージメントは大事」ということに異論を唱える方は多くないと思います。
しかしながら、私自身は最近のこの風潮(というかブーム)に違和感を覚えることが多くなってきました。
人事という立場で長く仕事をしてきた中で私の心が荒んでしまったのか、それとも、本質的ではない何かがそこにあるのか、そんな視点で改めて「エンゲージメント」について考えてみました。

ESなくしてCSなしという人事ポリシー

私がエンゲージメントや従業員満足といった考え方に触れたのは、人事の仕事に関わるようになった2010年頃のことでした。

当時在籍していた企業の経営者は本当に素晴らしい人格者で、社員のみんなから愛されている方でした。

その方が経営理念と同じくらい大事にしていたのが「ESなくしてCSなし」と「ぶら下がり社員はいらない」というポリシーでした。

当時、私は新卒採用と人財開発を担当していたため、会社説明会や研修の場で経営陣がこの言葉を語っている姿を何十回も耳にし、私自身も何百回もこの言葉を学生や社員に伝えてきました。

尊敬する経営者の言葉であるとともに、私自身もこの言葉を口にし続けたことで、自分の価値観の一部として体に染みわたっていることを今でも感じます。

在職中は、採用や研修だけでなく、人事制度や評価制度など様々な施策に関わらせていただきましたが、今思えば「ESなくしてCSなし」と「ぶら下がり社員はいらない」というポリシーは各施策の中に一貫して大事にされていたように思います。

前職を卒業する前年に「グッド企業キャリアアワード」、「日本で一番大切にしたい会社大賞」という素晴らしい賞を受賞することができましたが、これも経営トップが発信し続けてくれたポリシーのおかげであると感謝しています。

なお、当時の取り組みは藤井正隆さんの著書「社員を大切にする会社ほど伸びる理由」(https://www.amazon.co.jp/dp/4295401692)で紹介いただいていますのでご興味を持たれた方は是非ご一読ください。(私もほんの少しだけ登場します)

こういった価値観の中で人事としてのキャリアを積んできましたので、「ES(従業員満足)」や「エンゲージメント」、「エンプロイーエクスペリエンス」、「エンプロイーサクセス」といった考え方が重要であることは体の芯まで染み込んでいます。

それなのになぜ、最近の「エンゲージメントを高めよう」ブームに違和感を覚えるのでしょうか・・・

エンゲージメントが上がると業績って本当に上がるんですか?

「エンゲージメントが高い企業は業績も高い」という調査結果を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

私自身も、働き方改革やメンター制度、従業員サーベイ、マネジメント研修などの導入に向けて経営陣にプレゼンを行う中で、「エンゲージメントを高めると業績も高くなるんです!!」という資料を何度も作成してきました。

その中で最も多く活用させてもらったのがアメリカのギャラップ社による調査結果です。

最近ではリンクアンドモチベーション社も「エンゲージメントスコア向上は売上/利益向上に効果的」という調査結果をwebサイトで公開されています。

こういったデータを見る限り、どうやらエンゲージメントを挙げると業績も上がるということは説得力がある気もするのですが、それでも私の中のモヤモヤは晴れないのです。

ということで、エンゲージメントと業績の相関関係を考えてみました。

エンゲージメントについてギャラップ社は『組織に対して強い愛着を持ち、仕事に熱意を持っている状態』、リンクアンドモチベーション社は『企業と従業員の相互理解・相思相愛度合い』とそれぞれ定義しています。

これらの定義をもとに、エンゲージメントの高い状態をイメージしながら、「風が吹けば桶屋が儲かる」的発想で、業績とエンゲージメントの相関を私なりに整理してみました。

(1)社員が業務に熱意を持って取り組むのでアウトプットの品質/スピードが上がる。

(2)納品物の品質が高く、納期が短いので顧客満足度が上がる。

(3)顧客満足度が上がるのでリピート率UPや口コミ効果で売上がアップする。

(4)新規顧客開拓のための広告費や販促費が削減されコストが下がる。

(5)顧客に喜ばれ、売上アップ&コスト削減で上司に褒められるので、仕事にやりがいを感じる。

(6)仕事にやりがいを感じると離職率が下がるので、採用費や育成費のコストが下がる。

このように整理してみてみると、エンゲージメントと業績は相関があるだけでなく、相乗効果でらせん状に上がっていきそうな気がします。

これで解決!といきたいところなのですが、私の中での「エンゲージメントを高めよう」ブームへの違和感はなぜか消えません。

それがなぜなのか、もう少し深掘って考えてみることにします。

その施策って本当に効果的なんですか?

エンゲージメントを高める施策として一般的に認知されている施策を並べてみます。

・従業員にはランチもおやつも無償で提供します。

・会社から2駅以内に住めば家賃を半額補助します。

・社員の一体感を高めるために運動会を開催しました。

・毎週金曜に会社負担で飲み会(最近はオンライン)を実施しています。

・社員の成長のために受け放題の研修/eラーニングを提供しています。

・フレックスやリモートワーク、副業など柔軟な働き方を認めます。

・マネージャーと毎週1on1を実施します。

・ピアボーナスを導入して褒め合う文化をつくっています。

・経営陣とのランチ会を実施します。

・社長が毎日ブログ/イントラで情報発信をします。

・パルスサーベイ/エンゲージメントサーベイを導入してエンゲージメントを定量的し、PDCAを回しています。

こういった、エンゲージメントを高める施策は、書籍やセミナーはもちろんのこと、ネットで検索しても沢山の成功事例が出てきますし、それぞれは素晴らしい取り組みだと思います。

実際になんかしらの施策を導入して、エンゲージメントが上がった/離職率が下がったという経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ではこういった施策を導入すればするだけエンゲージメントは右肩上がりで向上するのでしょうか?

ここで私の疑問の解像度が上がってきました。

「何によってエンゲージメントが上がるかは、人によって違うんじゃないの?」

「職種や仕事の環境によって、エンゲージメントに影響があるものって違うんじゃないの?」

「エンゲージメントを上げるために、良かれと思って導入した施策で、生産性が落ちたり、逆にエンゲージメントが下がったりする人もいるんじゃないの?」

具体的な事例を想像してみました。(あくまで私の妄想です)

・なんか社員を集めてイベントやるらしいけど、プロジェクトの納期遅れてるし休日出勤でそれどころじゃない。そもそも大人数で集まるの苦手だしな。。。あのイベントっていくらかかってるんだろう・・・

・居酒屋に連れていかれるよりはオンライン飲み会の方がましだけど、そもそも私お酒苦手だし、家でPCに向かって酒飲んでると家族の目が・・・

・家賃補助はいい制度だけど、私は家庭の事情で実家の近くから離れられない。会社の近くに安い家賃で住める人はいいよな・・・仕事の成果は変わらないのに不公平だよな・・・

・毎月サーベイに回答させられるけど、何かが変わっていく様子が全然見えない。回答時間は15分だけど、チリツモでこの人件費も馬鹿にならないのでは?だったら適当にサクサク答えておこう・・・どうせ匿名だし。

若干、強引な事例かもしれませんが、こういうことって組織の中で起こっているんじゃないでしょうか?

少数派の意見として無視してよいのか、その人がカルチャーマッチしていないだけなのか、それとも会社として施策の方向性が間違っているのか・・・

もちろん、すべての人が満足する施策はありませんが、その総和がプラスになるものでなければ、それは時間とコストの浪費であり、人事担当者の自己満足と言われてしまうリスクもあります。

次の章ではこれらを踏まえて、エンゲージメントとどう向き合うかという持論(仮説)をつぶやいてみたいと思います。

我々は「エンゲージメント」というマジックワードとどう向き合うか

改めて、前職の経営ポリシーであった「ESなくしてCSなし」と「ぶら下がり社員はいらない」という言葉を思い出してみました。

なぜ「ESなくしてCSなし」が大切なのか。

それは代理店/営業・販売会社というビジネスモデルの特性上、扱っている商材での差別化ができず、社員の営業力/接遇力こそが競争優位性を担保するコアコンピタンスであることに由来します。従業員満足度(ES)が高い状態でないと、お客様のために貢献することができず、CSが業績に直結するためです。

この観点にたつと、効果の大きいエンゲージメント向上の施策は以下のようなものが考えられます。

・安心して長期間働き続けられる制度を整備すること。特に女性が多い職場なのでライフイベントとの両立は社員にとって非常に重要度が高い。

・オンとオフのメリハリをつけられること。顧客と直接向き合う職種であるため、ストレスが溜まりやすい職場環境と言える。よって休日の日数や長期休暇の取得を大切にし、オンとオフのメリハリをつけ、出勤時に仕事に集中できる状況を整えることが重要である。

・研修など自己成長の機会を設けること。商品やサービスのサイクルが早い業界のため、常に新たな知識を身に着け続けなければ、お客様の期待に応えることができない。

もう一つのポリシーである「ぶら下がり社員はいらない」についても考えてみたところ、<実はこちらの方が大切なのではないか?>という気づきがありました。

経営論やマーケティングでもよく言われるフレーズですが、「なにをやるかよりも、なにをやらないか」という観点です。

頑張っている人も、そうでない人もみんなが平等に恩恵を受ける施策を実施してしまうと「ぶら下がり社員」も大切にしてしまうことになります。

この観点に立つと、一律の住宅手当や食事の無料提供といったような施策は「やらない施策」と判断することができます。

会社の経営資源は限られているので、

・自社のビジネスモデルとその競争力の源泉となるものは何か

・会社として大切にしたいバリューやカルチャーとマッチしているのか

・やるべきことと捨てることを意図的に選べているか

という観点が大切なのではないでしょうか?

最後に私なりのエンゲージメント施策の検討ステップ(仮説)をまとめとしてご紹介します。

<エンゲージメント施策検討のステップ>

(1)自社の事業モデルにおいて、コアコンピタンスを産み出す社員のペルソナを抽出する

(2)そのペルソナが高い成果を出すうえで阻害要因となる制度や施策をできるだけ多く掲出し、効果/コストの2軸で整理する。(現行の制度/施策だけでなく、あったら嫌なものも含め付箋紙に書いて見える化する)

(3)そのペルソナが高い成果を出すことを後押しするような制度や施策をできるだけ多く掲出し、効果/コストの2軸で整理する。(現行の制度/施策だけでなく、あったら効果的なものも含め付箋紙に書いて見える化する)

(4)上記の(2)(3)で挙げた施策を
①高効果/低コスト
②高効果/高コスト
の優先順位で整理する。リソースが足りないときは阻害要因を取り除く施策を優先する。(阻害要因がある状態では、ポジティブな施策は効きにくいため)

(5)検討した施策が会社のバリューやポリシーとズレがないか確認する。もしここでズレが生じた場合は、(1)(2)(3)のどこかの段階でズレが起きていないか、そもそもバリューやポリシーが事業モデルにおけるコアコンピタンスとズレていないかということを疑う。

(この場合はバリューやポリシーと事業との整合性について経営陣と対話が必要)

(6)上記(4)(5)で確認された施策を優先順位に沿って粛々と導入し、社員の理解/浸透に注力する。(施策の意図が理解され、社員に活用してもらわなければやらないのと同じ)

なお、複数事業を持つ企業においては、(1)の段階で複数のペルソナが出てくることと思います。その場合は会社として共通して取り組む施策と、事業部別にやる施策を分けて考えるのが良いと思います。

「全社一律で平等な施策でないと実行できない」という思考停止に陥らず、できることからやっていく姿勢を大切にしましょう。(自戒の念を込めて・・・)

あくまで、私自身の経験をもとにした仮説ですが、ご参考になれば幸いです。

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執筆者

平山鋼之介

CANTERA4期卒業。
学生時代にインターネット関連の事業起ち上げを経験の後、商社系携帯電話販売代理店にて大手家電量販店の営業を担当。
その後、人事部に異動し採用/人材開発/人事評価・昇格制度を担当。社内カレッジ設立/女性活躍推進/M&Aに伴う人事評価制度改定/企業理念の改定・浸透などの全社プロジェクトを推進。9年間で2,000名以上の採用と6,000名以上の研修を担当。
2019年より東証1部上場インターネット関連企業にてグループ全体のHR関連業務を担当。 事業成長と社員のキャリア自律の同時実現をテーマに日々奮闘中。

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