エンプロイー サクセスについて考えてみた

Writing by:平山鋼之介

こんにちは。CANTERA ACADEMY4期生の平山です。
今回のテーマは私の中でのブーム(というか本日時点での確信)となっているエンプロイー サクセス(Employee Success)です。

10年かけて巡り合えた Employee Successという概念

前回の記事ではエンゲージメントブームに対する違和感をメインテーマに書かせていただきましたが、今回は関連するテーマとしてEmployee Successについて、考えてみたいと思います。

類義語がたくさんあるので、いったん下記のように私なりに整理してみました。

(専門家の方も沢山いらっしゃるので解釈に誤りがあれば恐縮ですが、持論ということでお目こぼしください)

◆従業員満足度(Employee Satisfaction)

環境や報酬、条件、仕事の内容、組織風土、仕事内容、成長実感など複合的かつ総合的な観点から従業員視点での会社・組織や仕事への満足度を表したもの。

◆エンゲージメント(Engagement)

『組織に対して強い愛着を持ち、仕事に熱意を持っている状態(ギャラップ社)』『企業と従業員の相互理解・相思相愛度合い(リンクアンドモチベーション社)』というように、会社と従業員の結びつきの強さを表すもの。理念やMission/Vision/Valueへの共感度合い、経営者や組織・メンバーへの愛着、仕事のやりがいなど動機づけ要因的な側面が強い

◆エンプロイー エクスペリエンス(Employee Experience)

その会社に入ることを検討した段階から採用選考、入社、就業、退職というサイクル(Employee Journey)において従業員が組織や人、仕事を通じて経験・獲得する価値。職務経験やスキル/知識の獲得といった実利的なExperienceだけでなく、居心地のよさや、在籍していることを誇りに思う感情、会社が好きという気持ちのような心理的・感覚的なExperienceも含む。

◆エンプロイー サクセス(Employee Success)

従業員がその会社での就業を通じて、仕事上での成長/成功を得ること。スキルを上げる、出世する、報酬を上げるといった縦方向のキャリアアップだけではなく、個々人の価値観や働き方に合わせた、ありたい姿・なりたい姿の実現をめざすもの。多様性を前提としたライフを含めたキャリアデザイン的な考え方。

整理ができたところで、私がどのような経緯でEmployee Successにたどりついたかという本題に戻ります。

私自身のキャリアは、2度の転職を経て現在は3社目の会社に在籍し、1社目から2社目の途中までの計9年間を事業サイド、2社目の途中から現在までの計11年間を人事サイドの立ち位置で仕事をしてきました。

事業サイドにおける後半の数年間はメンバーマネジメントが主な役割でしたので、目標達成に向けたチームの一体感や仕事と真剣に向き合う姿勢、メンバーの成長などを重視していたように思えます。体育会の部活動的なノリでしたが、今思えばエンゲージメント的な価値観だったと思います(当時は、エンゲージメントという言葉は当然知りません)

人事部に異動になって最初に担当したのは新卒採用と若手の研修、メンター制度などの新人フォローでした。ここで仕事や職場にうまく適応できずに悩む若手、早期退職する新卒社員と向き合うことが多くなりました。その経験を経てESサーベイ事務局や離職防止施策、女性活躍推進や働き方改革、社員登用・昇格制度、人事評価制度など衛生要因の改善を中心とした従業員満足度向上施策に関わるようになりました。

現場社員の満足度がいきなり向上したわけではありませんでしたが、中長期的に取り組んできた施策が外部から評価され、採用競争力にも効果を発揮するなど一定の手ごたえを感じることができました。

その一方で、違和感を覚え始めるようにもなってきました。終身雇用の崩壊、IT業界を中心とした新興企業の成長、Z世代と言われるスマホネイティブ・ソーシャルネイティブの出現、キャリアカウンセリングを学ぶ中での個人の視点と企業視点の矛盾、サイボウズさんのような働き方の多様性を前提とした組織運営の成功例など様々な情報・・・

これまでの常識が確実に変わっていっているという不安感の中、会社・組織・人事のあり方について考える日々が続きました。

そしてある日、一人の若手社員との退職面談で決定的な一言に出会いました。

「この会社は好きだけど、一つの会社に居続けることの方がリスクじゃないですか?」

退職慰留することも人事の役割の一つではありますが、この言葉に対して返す言葉は全く思い浮かばないどころか、今まで言語化できていなかったモヤモヤをクリアにしてもらったような気持ちになりました。

これをきっかけに以下のような考え方が整理されました。

「ある会社に所属して仕事をするということは、キャリア形成の一つの手段であって目的ではない。会社としてもその社員が在籍している期間に会社や顧客に貢献し、総合的にプラスの状態で卒業していくのであれば双方がHappyなのではないか。」

マーケティングでいうCustomer SuccessやLife Time Valueの考え方であり、人事用語に置き換えるとEmployee Success、そのためのEmployee Experienceのデザインの重要性に気付いた瞬間であります。

人事の仕事をはじめてから、ここにたどりつくまで約10年間の月日が経っていました。

従業員視点から見たEmployee Success=キャリアデザイン

従業員満足度、エンゲージメントとEmployee Successとの間には、そのスタンスに大きな違いがあると考えます。

それは従業員を会社の構成員(=コマ)として扱うか、自立した1人の人間として扱うかという根本的なスタンスの違いです。

従業員満足度やエンゲージメントを語るとき、経営や人事は従業員を会社に所属している構成員、大げさに言うと所有物の1人として考えることが多いのではないでしょうか。

戦争に例えるならば、自軍に所属する一人の兵士です。

戦争に勝つためには一体感や、個々の本来の実力もしくはそれ以上の力を発揮するための組織づくりが重要です。つまりは勝負に勝つための戦略としての従業員満足・エンゲージメントなのです。(この考え方は前回の記事で詳しく解説しています)

一方で、Employee Successにおける主役は会社や組織でなく、ひとりの個としての人間となります。

組織の所有物でもコマでもなく、ある時期に従業員として所属する契約をしている、会社と対等な関係の個人といえます。

この場合のスタンスは、自身のありたい姿やなりたい姿に近づくために、ある期間、特定の期待役割に対して組織に貢献し、そこで得た経験やスキル、人脈などを積み重ねていくという形になります。

この考え方は個人のキャリアデザインそのものといえるのではないでしょうか。

どれだけの時間/期間、どんな仕事をどれだけの報酬で受けるかという選択肢は個人にありますし、それに見合う実力を身に着ける責任は自分自身にあります。

戦争に例えるならば、契約で雇われる傭兵といったところでしょうか。

組織を勝たせるために最善を尽くしますが、その国や軍のために死んでも良いとは思っていません。生きて帰ることが大前提の働き方です。

契約期間が終われば、お役御免となりますが、その組織の居心地が良かったり、自身にとって貴重な経験を積める場であれば長くその組織に所属したり、一度は離れても、また数年後に戻ってくるということもあります。(=Employee Experience)

企業でいうと、リクルート社は昔からこのスタンスを貫き通しているロールモデルといえるのではないでしょうか。

昨今の新型コロナとリモートワークで話題になっている欧米型のジョブ型雇用というのもまさにこの考え方に通ずるものがあります。

会社視点から見たEmployee Success=優秀人材確保の手段

会社視点から考えた場合、個人が主役であるEmployee Successとどのように向き合うべきなのでしょうか。

終身雇用や正社員制度、退職金といったルールで社員を縛り付けることができなくなった現代において、いわゆる日本型雇用/組織運営が成り立たなくなっているのは皆さんもお気づきのことと思います。

就職人気ランキングの上位を占める総合商社においても一昔前では考えられなかった若手社員の早期離職がニュースとなっており、「転職しないことのリスク」が顕在化されています。

日本における最優秀層といわれる大学生の中では外資系コンサルが就職先として一番人気だそうです。

その理由は「次の転職に有利だから」。

会社の規模やブランドの求心力が落ちている現在において、会社を成長させる優秀な人材の確保のために必要な考え方がEmployee Successなのではないでしょうか。

「あの会社に行けば3年間でものすごい成長ができ市場価値が上がる」

「この会社でマーケティングの知識を身に着けて、20代で起業したい」

「この会社であれば、複数の事業を経験することができ、数年後のキャリアの選択肢が広がりそう」

会社側の立場からすると、就職面接の場でこんな言葉が出てくると苦い顔をしてしまう人もいらっしゃるかもしれませんが、この考え方を受け容れないと優秀な人材を確保することは困難になっています。

とはいえ、高額な採用コストと育成コストをかけた人材が、本当に数年で退職してしまっては会社経営、組織運営は成り立ちません。

それでは会社はどうすればよいのか。

最後の章で、従業員視点のESと会社視点のESの両立について考えてみたいと思います。

従業員視点のESと会社視点のESは両立できるのか

優秀な人材を確保するためには、従業員個人が主役であるEmployee Successのスタンスを会社側も受け容れる必要があると述べました。

一方で、早期退職が前提となると経営に支障をきたすというリスクも容易に想像できます。

従業員視点と経営視点の両立のための解決策を以下にまとめてみました。

1.LTVをプラスにすることを双方でコミットする

会社が投資するトータルコスト(採用、育成、給与、福利厚生、設備利用等)に対し、成果・貢献度が上回ることをコミットする。(成果・貢献度は必ずしも定量化できるわけではないが、お世話になった分はお返しできたと思える状態を目指す)

従業員にとっては短期的なメリットはないように思えるが、この考え方を持っていないビジネスパーソンがキャリアで成功を収めることは困難なので、結果的には双方にとってメリットとなる。

2.ジョブ型、プロジェクト型の組織運営とし、業務の属人化をなくす

人に仕事をつけるメンバーシップ型の組織運営では、人材の流動化への対応が非常に困難となり、担当が替わるたびにknowledgeは希薄化していく。退職する方もされる方も周囲へのネガティヴな影響を気にするため、退職=裏切者といった空気感が生まれてしまう。

ジョブ型で業務を明確にし、担当業務はプロジェクト型でアサインすることで成果や責任が明確になり、個人のスキルアップにつながるだけでなく、人材の流動化にも柔軟に対応できる。退職時もプロジェクトの区切りといった双方にとってダメージが少ないタイミングを選びやすく、退職後も良好な関係を保ちやすい。

3.能力開発は自己責任。会社は機会/手段を提供する

長期雇用が前提の組織運営においては社員育成、人材開発は会社の責任のように捉えられてきたが、社員が主体のキャリア形成という視点に立つと、階層別研修のような会社主導による一律の学習機会提供はROIが非常に低い投資といえる。

キャリアを自分で選択するということは、能力開発も自己責任となるので業務に必要なスキル/知識といったテクニカルスキルはもちろんのこと、ヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルなど、より上位概念の能力開発も、必要なものを自ら選んで身に着けるスタンスが求められる。

この時にEmployee Successの視点で会社が提供すべきなのは一律の集合研修ではなく、外部研修の受講補助、MOOCやマイクロラーニングのような学習ツール&コンテンツの提供、書籍の購入補助といった成長意欲の高い社員にとって満足度と効果が高い学習機会と手段の提供と考えられる。能力開発においてもROIとLTVの視点が重要である。

以上、私の妄想をベースにしたEmployee Successの進め方でした。

こんな組織が実現出来たらメチャクチャ楽しいだろうなーと思いつつ、皆様のご参考になれば幸いです。

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執筆者

平山鋼之介

CANTERA4期卒業。
学生時代にインターネット関連の事業起ち上げを経験の後、商社系携帯電話販売代理店にて大手家電量販店の営業を担当。
その後、人事部に異動し採用/人材開発/人事評価・昇格制度を担当。社内カレッジ設立/女性活躍推進/M&Aに伴う人事評価制度改定/企業理念の改定・浸透などの全社プロジェクトを推進。9年間で2,000名以上の採用と6,000名以上の研修を担当。
2019年より東証1部上場インターネット関連企業にてグループ全体のHR関連業務を担当。 事業成長と社員のキャリア自律の同時実現をテーマに日々奮闘中。

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