企業経営と労働生産性

最終更新日:2020/09/14

Writing by:森 友也

企業のサスティナビリティは労働生産性が持続的に向上していくということ

2020年は個人にとっても企業にとっても大きな転換を迫られている年になっていますね。
このコロナ禍の流れはいつまで続くかまだ出口が見えない現在。企業人事をもっとも悩ませているのは、これからの自社の「働き方」ではないでしょうか?
企業経営における、戦略人事が重要視されていることは承知のことと思います。戦略人事を進めていく上で外せないのは、人の気持ちと正しいデータ。この両輪を適切に定めなければ自社が変革する時代に生き残っていくことは難しくなっていきます。
今回は「労働生産性」の基本的な指標と高めるポイントについてお伝えしていきます。

労働生産性に影響を与える人事戦略には4つの要素が相関関係にあった。

以下、リクルートワークス研究所の「人事視点による生産性の持続的向上モデル」調査レポートを抜粋しながらご紹介します。

「経営・人事を取り巻く環境は大きく変化している。変化に適応すべく、人事戦略においても新しい取り組みが見られるようになってきた。代表的なものには、ダイバーシティ&インクルージョンの推進や、働き方改革など。企業の競争力を高め、維持するためには、持続的に生産性が向上する状態を作り出すことが必要不可欠である。」

という前提から調査を開始。

この研究・調査レポートでは、イノベーションの創出につながる2つの道筋と労働時間の削減につながる2つの道筋をかけ合わせ、持続的生産性向上のモデルを構築しています。

その4つの要素のかけ合わせた結果を以下にご紹介します。

1.ダイバーシティ&インクルージョンと働き方改革
女性活躍推進に取り組むと、仕事と育児を両立して活躍するためには残業が当たり前の労働慣行を変えないといけないということに気づく。多様な人材が就業に参加するには、フェアで効率的な働き方を実現しておかなければならない。

2.働き方改革とアサイメント改革
効率的に働くためには、自らの専門性を活かすことや、上司が適切にジョブアサインすることが 欠かせない。またテレワークを実行すれば、もはやプロセス管理ができなくなり、日々の擦り合わせが利かなくなるので、あらかじめ明確なミッションを与え、仕事の成果と期限を明確にしなけれ ばならなくなる。テレワークというひとつの施策が、マネジメントそのものの抜本改革を迫ることにもなる。

3.アサイメント改革とプロフェッショナル人材育成
上司のアサインがレベルアップすれば、部下はより自律的に仕事の進め方を考えるようになる。 また適材適所のジョブアサインや一人ひとりのキャリアデザインを支援するマネジメントができれば、その結果としてプロ人材が育ちやすくなる。オーナーシップはプロの仕事のベースであるので、細かいプロセス管理と不明確なジョブアサインでは部下が育たない。

4.プロフェッショナル人材育成とダイバーシティ&インクルージョン
プロフェッショナルは技術の深化の過程で個性的になってゆく。その個性こそがプロの価値なのである。それを受け入れて活かす組織風土があれば、プロは育ち、より活躍するというわけだ。ここにも明確な正の相関関係が成立していた。

これらは現在の人事課題をまさに反映しており、この4つの要素を連携させながら解決していける企業が高い労働生産性の実現により持続的な企業経営を実現していけるのだと示唆しています。

自社の人事戦略と照らし合わせて、影響される要素の活動を振り返って見ましょう。

人事が押さえておくべき「労働生産性指標」

次に、企業経営において重要なキーワードのひとつとなっている「生産性」ですが、どの程度理解し実際の経営に反映出来ているでしょうか。

「生産性」はそれぞれの生産要素から捉えることが出来るため、様々な指標があったり、データの定義や標準化が複雑であることから、実際の企業運営に活用することは極めて難解なテーマとなります。

マサチューセッツ大学の研究によると、高い生産性を持つ組織には、次の二つの特徴があると言われています。

1.組織の構成員に高い社会的感受性を持った人がいる
社会的感受性とは、組織や社会の場において、他人の感情や要望を理解する能力のこと。この能力が高い人をチームリーダーや管理職に抜擢できるかが生産性向上の鍵と言えます。

2.組織の積極性に格差がない
誰かが率先して仕事をひきうけることで、他のメンバーが消極的で責任や仕事を請け負いたがらない体制は、効率が上がらない傾向にあると言われています。

当事者意識を持ち、自ら課題を見つけて積極的に取り組むスキルを向上させるべく、社員育成に取り組むのがよいということを示しています。

労働生産性の計算式
一般的な労働生産性の計算には「物的労働生産性」と「付加価値生産性」の2つで自社の労働生産性を分析し現状を把握し、生産性の高い経営を目指して行きます。

物的労働生産性の計算式・計算方法
物的労働生産性とは、産出量(アウトプット)に、「生産数量」や「販売金額」などをおく考え方で、「労働者が一人当たり、どれだけ効率的にモノやサービスを生産しているか」を意味します。計算式は以下になります。

物的労働生産性=(生産数量or販売金額)/労働量

物的労働生産性は、基本的に商品(製品)・サービスを対象にしており、生産量の効率性を数値化したものであり、設備投資の判断や品質管理の向上などの参考値として活用できます。

付加価値労働生産性の計算式・計算方法

付加価値とは、一般的に企業が生み出した総生産額から、原材料や外注費などの非付加価値額を差し引いた価値を表す用語です。また、企業が商品やサービスに機能的・感情的・自己表現的価値を付加することで得られる利益とも定義されています。

付加価値労働生産性とは、産出量(アウトプット)に付加価値をおく考え方で、「労働者が一人当たり、どれだけ付加価値の高い仕事をしているか」を意味します。計算式は以下になります。

付加価値労働生産性=付加価値(額)/労働量

付加価値労働生産性は、利益を最大化させるための指標として算出されます。

労働生産性を高めるポイント

生産性向上のために企業が行うべき取り組みには様々なものがありますが、その中でも優先度の高い5つの取り組みを紹介します。

1.業務の見える化
戦略的に生産性向上に取り組むためには業務の見える化が欠かせません。なぜなら、組織やチームの現状を正しく把握することができなければ、インプットとアウトプットの量やバランスを確認することができないからです。PDCAサイクルによる効率的な生産性向上を実現させるためにも、その他の取り組みに先立って可視化に取り組むことが重要です。

2.IT技術の有効活用
自社の特性や組織構造、業務内容に適した技術やシステム、ツールを導入し、積極的に活用することによって労働環境に革新的変化をもたらすことができます。効率的な運営によって、生産性を高めることは取り組みやすい一つの対策となります。

3.コア業務への集中投資
雑多な業務を多く抱え過ぎた結果、本当に注力すべき業務に経営資源(リソース)や時間を集中できなくなってしまったというケースは決して少なくありません。このような状況を改善するためには、コア業務とノンコア業務を明確にし、ノンコア業務に対して投資している経営資源や時間を削減する方法を検討する必要があります。

4.従業員エンゲージメント・モチベーションの向上
従業員エンゲージメントやモチベーションの向上というと、従業員側の利益だけを意識した取り組みのように思えますがそんなことはありません。従業員エンゲージメントの向上を図ることで、優秀な人材の外部流出を防ぎ、一人ひとりの士気を十分に高めることができます。

また、モチベーションの向上を図ることで、職場内の雰囲気を明るい状態で維持し、チームワークや集中力を高めることができます。

現場や個々の従業員に対する支援は、アウトプットの増加という形で組織に返ってきます。

全ての従業員がワーク・ライフ・バランスを実現できるような働き方改革を推進することによって、ヒトの持つ力を最大限に活用することができるでしょう。

5.適切な人材配置と人材育成
人材の活性化や有効活用は最も現実的であり、優先的に実施するべき取り組みだといえます。 人材の活性化や有効活用に関する具体的な施策には、適切な人材配置や人材育成があります。

適切な人材配置とは、長所や本人の希望、チームメンバーとの人間関係など様々な要素を十分に踏まえた上で、個々の人材が最も効果的な形で価値を生み出すことができるポジションに配置することです。

まとめ

・持続的な「生産性」の向上は、組織が保有する経営資源を最大限に有効活用し、最小限の投資で最大限の成果を生み出すことを目指す

・業務効率化は「生産性」向上を実現させるための手段の一つ

・「生産性」が高い組織の特徴や心理的安全性を高めることで得られる効果を学ぶことで、より効果的に生産性向上を図ることができる

・企業と個人の2つの視点で生産性向上に取り組むことによって、組織の生産性を最大限にまで高めることができる

・育成や成長には「適材適所」に重きをおいた組織体制、人員配置が最も生産性に影響を与える

自社の人事戦略と経営課題を見つめながら、大きく変化している環境へ適応し持続可能な経営の実現を目指していきたいですね。

出典

人事視点による生産性の持続的向上モデル 「リクルートワークス研究所」

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執筆者

森 友也

CANTERA3期卒業生。
大学卒業後、モバイルサイト広告営業を経て、生損保事業で独立。介護施設開発営業や介護運営コンサルティング事業を経験し、(株)フェニックスで事業統括責任者執行役員へ就任。29歳でグループ会社(株)ユニコーンを設立し代表取締役に就任、事業譲渡。2018年8月東証1部上場(株)ショーケース・ティービー(現ショーケース)へ入社。職業紹介事業・HR-Tech事業部の新規事業開発へ携わった後、経営企画本部へ異動し経営企画部長として経営管理・予実管理・情報システム・IR・PR広報を管掌し活動中。FFSパーソネルアナリスト1級。

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