0からPeople Analytics組織を立ち上げて感じた大切なポイント

最終更新日:2020/12/30

Writing by:能登隆太

数年前、一時的にAIへの注目が再燃し、それと同時に日本でもHR Techが脚光を浴びるようになりました。

同じ時期からHR Techや人事データ活用を目的とした組織やプロジェクトが多くの企業内で興っては消え……を繰り返してきました。

「AI使って何かやれ」そんな経営層からの突然の依頼に応えなければならず困っています、という担当者の叫びもその頃多かったように思います。

かくいう私もその最中、2018年10月、勤務先である伊藤忠商事にて「次世代HRタスクフォース」というHR Tech/人事データ活用組織を立ち上げた一人でした。

目的は、テクノロジーやデータの有効活用を通じて従来の人事業務の高度化を目指すこと、そして最新事例含めた世の中の動向を社内に還元することです。いわゆるPeople Analytics組織ですね。

組織立ち上げの背景

私の場合は会社からの一方的な指示で組織を立ち上げたわけではありませんでした。

少し発足の背景を説明させてください。組織が発足する前、私は全く別の人事系業務に従事していました。そんな中、私はメンタルマネジメントとコミュニケーションに強い関心がありました。

それは親族がその昔、職場で上司によるパワハラをきっかけに心が不安定になってしまい、数十年経った今でも苦しんでいる姿を目の前にしてきたからでした。

人は仕事のために生きているわけではないのに……色々な価値観はありつつも、私はそう思いながら友人伝いで様々な企業の話を聴き、

「時代は大きく変わっているにも関わらず、なぜ職場でのマネジメントやコミュニケーションのあり方はこんなにも変わらないのか」

「職場でメンタル不調の社員が出た時に『〇〇さん、最近会社来てないらしいよ。メンタルになっちゃったみたい』と仕方ないことのように語られ、数週間後には何もなかったかのように日常が戻る。
でも本人とその家族は場合によっては一生辛い想いをするかもしれない。その重さを本当にわかっているのかな?」
とモヤモヤしていました。

犯人探しをしたいわけではありません。本質的には丁寧なコミュニケーションを通じてそういったケースを防ぐことができたらベストです。が、やはりそうはいっても限界があることを知り、うまくテクノロジーやデータを活用することで目に見えない社員のSOSを察知できるのでは?もっと社員が本来の力を発揮できる場を創れるのではないか?という想いが強くなりました。

その想いも胸に、当時の人事・総務部長に企画書を提出、HR Techや人事データ活用という世の中の流れもあり、会社の方向性とも合致するからやってみようか、と了承を取得したことが「次世代HRタスクフォース」の始まりでした。

次世代HRタスクフォースではこちらのような取り組みなど、様々なプロジェクトを実施。2020年4月以降、私は担当を離れ、現在は人事・総務部の既存組織にその機能が組み込まれています。

次世代HRタスクフォース発足まで私はAIやHR Tech、人事データ活用という領域に一切触れたことはない「ど素人」でした。何せ大学まで野球しかしていませんでしたので(笑)
ただ、組織発足から3ヶ月、とにかくあらゆる書籍を読み漁り、外部講習にも参加し、簡単なデータラングリング(データを集めて綺麗に加工すること)や統計解析はできるようになりました。

ただ、それだけではHR Techや人事データ活用プロジェクトを進める上で足りない視点がたくさんありました。今回はPeople Analytics組織立ち上げとその成功に向けて、今だからこそ大切だと感じるポイントをご紹介します。

人事データ活用自体の意義や勘所、具体的な分析結果の活用方法については既に世の中に優れた事例がたくさん掲載されていますのでぜひ調べてみてください。

組織立ち上げフェーズにおいて大切にしたいポイント

組織を立ち上げる際、多くの関係者は「あの組織って何やるんだ?」「面倒なことが増えないかな?」と疑心暗鬼だったりします。そんな中で今後、円滑に活動を進めるために大切なポイントが3つあります。

1.組織の活動目的とゴール、予算を責任者と明確にすり合わせておく

何のためにPeople Analytics組織を立ち上げるのか、何がどのような状態になったら目的を達成したと言えるのか、どの期間でいくら予算を使えるのかを経営陣や責任者と明確にすり合わせをしておきます。できればデータに残し、責任者が変わっても過去経緯が容易にわかるように整えてます。

People Analyticsは、仮に既にシステムやデータ整備が完了しており、高い専門性と経験を有する社員が対応するケースを除いて、試行錯誤の連続であり、データ活用以前にデータを集めること、綺麗にすることに膨大な時間を要します。

よって、定められた活動期間の中で事業成長や社員のエンゲージメント向上、業務効率化など明確な目標達成まで求めるのか、アジャイル的な活動を通じてノウハウ蓄積しその後の活動の方向性を定義づけるところまででいいのか、ゴールイメージをすり合わせておく必要があります。

ここがズレると、数ヶ月や数年経った後に、「あの組織やプロジェクトは結局大した成果を生んでいない、失敗だった」と言われてしまうリスクがあります。

2.構成メンバーは現場経験者とシステム開発・運用ノウハウのある社員を選んでおく

メンバーを新たに集めて組織を立ち上げる場合は、外部からのプロ人材採用も選択肢に入れつつ、現場経験者とITノウハウのある社員を人選します。

人事データは商品の売上データやセンサーデータと異なり特徴的な側面を持っています。それは定性コメント等の非構造化データが多いこと、そしてそもそも評価データ等の人事データそのものが人の感覚的な判断によって生み出されている不安定なものだという点です。

よって人事データを分析して結果が導き出された際に「どう解釈するか」が非常に重要となります。特にPeople Analyticsはセンシティブな情報も多いため、人事領域での実務経験や現場経験がある社員が入ることで解釈の精度を高めることができます。

また、分析プロセスや結果の活用方法のデザインを行うためにはプロジェクトの要件定義が緻密にできること、人事基幹システムの構造を熟知しておりシステム開発会社ともスムーズにコミュニケーションできる社員が不可欠になります。

一般的に人事データ活用関連のプロジェクトは、6ヶ月程度要するものであれば外部委託すると1,000万円〜数千万円かかることもあります。
投資額を考慮しますと、分析自体も内製化できればベストです。それが難しい場合でも、不必要なデータ加工作業や高度な分析を省くための目利きができるかという観点でも、システム開発・運用ノウハウのある社員の協力は重要でしょう。

3.組織について社内関係者に周知し協力体制を構築しておく

最近の人事基幹システムは多くの異なる人事関連情報を社員番号をキーとして統合管理することができ、データが綺麗に整備されていることも少なくありません。

ですが大企業ほど、データが各部署に点在していて形式もバラバラなことが多いかと思います。例えば社員の研修参加履歴は研修チームがエクセルで管理、人事評価は評価チームが人事基幹システムで管理といったケースです。

新たにHR Tech等のツールの導入を通じてデータ取得する場合は問題ありませんが、もし既存の人事データも活用するとなれば、各部署に点在するデータを集めるところから始まります。

それには各部署の理解と協力が不可欠です。よって、組織発足が会社としてどのような意味を持つのか、今後どのような活動を目指していくのか、どのような場面でどんな協力を要請する可能性があるのかを関係部署に予め周知し、了承を取得しておきます。

実際に人事データを活用する際は、追加でデータ提供を依頼したりと頻繁なやり取りが他部署と発生する可能性も0ではないため、最初に連携方針を明確化しておくことが重要です。

プロジェクトを成功に導くためのポイント

次に無事に組織が立ち上がった後、組織の立ち上げ目的の実現とプロジェクトの成功確率を高めるために大切にしたいポイントを3つご紹介します。

1.やることとやらないことを事前に整理する

採用や配置、退職予測等、人事データの活用内容によっては慎重な判断が必要になります。データの活用方法を社員が聞いた時に不快感を感じるような活用方法は避ける必要があり、People Analytics組織としてポリシーを定めた上で、どのようなプロジェクトを手がけるのか、また、絶対にやらないことは何かを事前に明確化しておくことをお勧めします。

また、まずは今あるデータから何が言えるかを探索的にデータ分析する方法もありますが、手間と費用をかけて得られた答えが現場社員からすれば「そんなの当たり前じゃん」とあまり参考にならないケースもあります。
よって、なぜやるのか、どのような結果が得られるとこれまで見えなかったような示唆を得ることができるのかを予め設定した上でプロジェクトを進めることが大切だと感じています。

2.協力的な現場を巻き込み、まずはアジャイル的に事例を一つ作る

データ活用に理解がある会社でない限り、組織立ち上げから間もない時期はPeople Analyticsそのものや得られる成果を周囲があまりイメージできていないことが多いと思います。

そこで、取り組み方針を決めたらまずは協力的な現場の部署を巻き込み、小さな成果でも良いので一つの取り組み事例を作ることで関係者が「こんなメリットがあるのだ」「こんな学びを得ることができるんだ」と実感してもらうことが継続的に取り組む上で必要になります。

3.定期的に社内に情報発信し関係者のデジタルリテラシーを高める

People Analytics組織にテクノロジーや人事データ活用のノウハウが溜まるだけでは不十分であり、結局は人事の各部署のデジタルリテラシーが高めることがより効果的・効率的な人事データ活用に繋がっていきます。

データ活用プロジェクトにおいてはデータラングリングに最も時間がかかることは先述の通りですが、例えば研修チームが研修参加者にアンケートを取得する際も最終的にアンケート結果を分析するのであればアンケートの取得形式も見直す必要があります。
※定性コメントのみではなく、評価尺度を入れて数値化しラベリングできるようにしておく等。

また、各部署がそれぞれの判断でHR Tech等のツールを導入していくと個別最適化が進み、システム保守費用が余計にかかったり、組織全体で見た時の管理コストが高まる懸念もあります。
そうならないようにするためにもHR Techの動向やデータ活用時のポイント、システム導入時の留意点等、People Analytics組織に蓄積されたノウハウを定期的に関係者に発信することで、デジタルリテラシーの底上げを行うことも重要なミッションだと感じています。

さいごに

これから新たにPeople Analytics組織の立ち上げを検討されている方、既にPeople Analyticsに取り組んでいる方、様々な方がいらっしゃると思いますが、取り組みのフェーズ毎に意識すべき観点は変わってくると思います。

今回は組織の立ち上げフェーズとその後のスムーズな走り出しを実現するために、私が過去の経験から感じていたことをご紹介させていただきました。

People Analyticsはあくまで人事の意思決定の補助材料としかなり得ないと考えています。その解釈には幅がありますが、社員の人生に関わるような大きな影響も及ぼしかねないことを理解した上で、高い倫理感が必要です。

少しでもPeople Analyticsの発展と浸透によって偏見や先入観により歪んだ意思決定やコミュニケーションによって苦しい想いをする人が減ることを望むと共に、より一層社員が力を発揮できるような取り組みを増やしていきたいですね!

人事としての専門性を高めたい!とお考えの方はこちらを是非ご覧ください。

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執筆者

能登隆太

CANTERA ACADEMY3期卒業。

新卒で伊藤忠商事に入社。入社後は人事・総務部配属となり、新卒採用・海外人事(駐在員処遇、出向対応、現地生活調査等)に従事。2018/7にHR Tech、データ活用組織を立ち上げ、その後全社研修企画も兼務。2019/7より全社で新設された「第8カンパニー」の人事担当を務める。

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